2015 Fiscal Year Research-status Report
「共生」を実現する教育の実証的検討-「社会的カテゴリーの問い直し」に着目して-
Project/Area Number |
26381119
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
飯田 浩之 筑波大学, 人間系, 准教授 (40159562)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡本 智周 筑波大学, 人間系, 准教授 (60318863)
庄司 一子 筑波大学, 人間系, 教授 (40206264)
水本 徳明 同志社女子大学, 教職課程センター, 特任教授 (90239260)
荒川 麻里 白鴎大学, 教育学部, 准教授 (20389696)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 共生 / 共生教育 / 共生社会 / 社会的カテゴリー / 生徒 / 学校 / 教育学 / 社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究2年目の本年度にあっては、第一に、中高生1,095名を対象に「『共生』に関する意識調査」を実施し、得られたデータの分析を行った。特に本年度において中心に据えた分析は、「共生」をプロセスとして捉える立場からの分析である。研究代表者の飯田が「共生」を「共生ならざる事象に目を止め、事象を生み出している社会や個人の在り方を問いつつ、そうした事象の解消を目指すこと」とする見方から、中高生の社会認識における現状批判的傾向が「共生」に関わる問題認識につながり得るものかどうかの検討を行った。その結果、批判的な認識のうちでも社会の平等性の欠如に対する批判的認識が、「共生」に関わる問題認識につながり得ることが明らかになった。 第二に、研究分担者の水本が、多文化共生に積極的に取り組んでいる兵庫県をフィールドとした実践事例調査を行った。具体的には、芦屋市立潮見小学校と兵庫県立芦屋国際中等教育学校を訪問し、多文化共生、人権教育、男女共生教育などについて担当者に聴き取り調査を行った。また、兵庫県立明石清水高校の「人と環境類型」で学校設定教科「共生」を推進した担当者に聴き取り調査を行った。更に、兵庫県立子ども多文化共生センターを訪問し、学校での共生教育への支援など活動内容について聞き取り調査を行った。 第三に、共生を「社会的カテゴリーの更新」と捉えて論究していく理論的作業を行い、研究分担者の岡本が、その成果も含めて『共生の社会学――ナショナリズム、ケア、世代、社会意識』を編集した。また、同書において、昨年度、成果を『報告書』として取りまとめた「高校生のコミュニティとの関わり合いに関する調査」のデータを用いて、「「共生」に関わる社会意識の現状と構造」の解明を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「遅れ」の第一は、予定していた教員調査を本年度中に終わらせることができなかった点である。 本年度、まず取り組んだのは、昨年度、実査まで行うに至らなかった生徒調査の実施である。対象校6校を選定して調査の実施を依頼したものの、うち3校から、校務多忙や他の調査を引き受けていることを理由に調査の実施が不可能であるとの通知を受けた。急遽、代わりの学校に依頼を行ったが夏季休業と重なり、結局、3校については調査の実施が休業明けの9月にずれ込むこととなった。その結果、調査票の回収が10月、データ入力の終了が11月初旬となり、研究に遅れを来すこととなった。その後、研究協力者のみならず、研究室の大学院生・学生を動員して集計を進めたが、遅れを取り戻すことができず、結果的に、教員調査に関わる作業は後回しとなった。本来なら、ワーキング・グループを編成して教員調査の調査票づくりに本格的に取り組む予定であったが、その作業は次年度に持ち越すこととなった。 遅れの第二は、実践事例調査における分析の遅れである。訪問調査を実施して、インタビューデータの逐語録を作成したが、分析を進めるに至らなかった。多文化共生、男女共生、人権教育など多様な理念と施策の下での実践を「共生教育」の実践として分析する視点の構築に時間が必要であり、分析を次年度に持ち越すこととなった。 本年度は、生徒調査、実践事例調査、ともにワーキング・グループでの作業が中心で、全体の研究会の開催も、6月28日の1回のみであった。調査の結果を踏まえた研究成果の集約も、調査結果の検討の遅れによって、十分に進めることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、早急に進める必要があるのは年度を越すこととなった教員調査である。この点については、まずはワーキング・グループによる機動的な対応を考えている。本年度、生徒調査のデータを集計する際に機能した研究室の大学院生・学生のグループが、その後も引き続き、自主的にデータの解析を行っており、そのグループを教員調査のワーキング・グループとして機能させる予定である。実査においては、データの入力において短期雇用を増やしたり、業者へ外注したりして効率化を図ることを考えている。課題は、調査結果を共有しつつ、調査から得られた知見を検討する時間と場の確保である。次年度においては、全体の研究会を開催し、生徒調査や実践事例調査で得られた知見を総合的に検討することが不可欠であり、教員調査の結果についても、そうした研究会で併せて検討することで遅れを取り戻すことにしたい。また、研究会も集約的に開催し、検討の効率を測る。 実践事例調査については、本年度に訪問した学校へ継続調査を行うとともに、兵庫県立明石清水高校、兵庫県教育委員会、芦屋市教育委員会への訪問調査を実施して、文書資料を収集するとともに関係者に聞き取り調査を行う予定である。得られたデータを分析して、学校単位及び自治体単位での共生教育の推進条件と課題を明らかにすることになるが、本年度、構築に時間がかかった分析の視点を有効に活かしてデータを分析、結果の導出を急ぐとともに、次年度は最終年度のため、研究全体を取りまとめることが大きな課題であり、機動的に研究の成果を交換し合い検討を進めることで、研究全体の取りまとめの効率化を図る。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、第1には、教員調査が遅れ、それを次年度に先送りしたためである。実査に必要な物品の購入、実査の依頼・交渉、調査票の印刷・配布・回収、データの入力やデータ・クリーニングに必要な経費が残った。第2に、生徒調査、実践事例調査ともに、ワーキング・グループでの活動関係の全体研究会の開催が1回だけとなった関係で、旅費の使用が計画を下回ったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に持ち越した教員調査を進めるため、実査の依頼・交渉、調査票の印刷・配布・回収、データの入力などを行う。この経費については、実査の進行に合わせて、適宜、支出する。1回のみの開催となった全体の研究会については、研究分担者、研究協力者の勤務地が離れていることを考慮し、回数を増やすよりは1回の研究会の時間を長く確保することで対応、場合によっては宿泊を伴う形で実施し、経費の効果的な運用を図る。
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