2014 Fiscal Year Research-status Report
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26400337
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
的場 正憲 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (20229595)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
神原 陽一 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (50524055)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 強磁性量子臨界状態 / 二次元近藤格子系 / 重い電子系 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄系高温超伝導関連物質CeFePOは極低温でも磁気転移を示さないが、Ce(Fe,Ru)POでは強磁性量子臨界現象が観測される。CeRuPOの強磁性相はFe濃度の増加とともに強磁性転移温度TCが減少し、Fe濃度が85 %付近で量子臨界点(QCP)を迎える。本研究では、CeFePOのFeを Ru, Cr等で部分置換した結晶を作製し、低温高磁場下における物性測定により、抑制されていた強磁性転移が発現しかかったQCP近傍物質の電子物性の本性を明らかにする。そのためには、化学組成が制御された良質結晶の作製と低温輸送現象測定が必要不可欠である。よって、初年度には3He冷凍装置による高磁場下輸送現象測定装置の立ち上げを行いながら、強磁性QCP 未確認物質Ce(Fe,Cr)POを注意深く合成・同定するとともに、強磁性QCPの探索・実証を行った。 注意深く合成したCe(Fe,Cr)PO(Cr置換量x≦0.75)は全て常伝導を示し、x≧0.20試料は電気抵抗極小現象を示した。x=0.07-0.38の試料は強磁性を示し、最高のTCはx=0.30で10.8 Kであった。Cr置換に伴う格子定数a, cの増大によりCeO層と(Fe, Cr)P層の層間距離が増加し、伝導電子と局在した4f電子間の混成による近藤カップリングが抑制されている。57Feメスバウアー分光の結果、x=0.10, 0.20の試料は4.2 Kまで四重極分裂のダブレットのみを示し、Ce(Fe,Cr)POに発現する強磁性はCe由来によるものである。一方でx≧0.50の試料ではTCが2 Kまで観測されず、RKKY相互作用の符号反転によりCe原子の基底状態が強磁性から反強磁性に変化している。したがって、Ce(Fe,Cr)POでは、Cr置換量0.05≦x≦0.07および0.38≦x≦0.50に強磁性QCPが存在していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
強磁性量子臨界点(QCP)未確認物質Ce(Fe,Cr)POを注意深く合成・同定するとともに、強磁性QCPの探索・実証を行ない、Cr置換量0.05≦x≦0.07および0.38≦x≦0.50に強磁性QCPが存在していることを明らかにした。CeCrPO(Cr全置換体)の単相は得られなかったが、Cr置換量x≦0.75までの試料は合成可能であることが分かった。 2012~2013年、我々は京都大学石田グループと共同で、鉄系超伝導体関連物質である常磁性体 CeFePOのFeサイトをRuで部分置換することにより、抑制されていた強磁性転移を発現させ強磁性QCP(Ru濃度14%)が本質的に存在することを明らかにするとともに、二次元近藤格子系Ce(Fe,Ru)POの強磁性量子臨界相図を作成し、従来の強磁性量子臨界相図と大きく異なる新奇な特徴をもつことを世界で初めて指摘した。今回明らかにしたCe(Fe,Cr)POの強磁性QCPの起源を、Ce(Fe,Ru)POの強磁性量子臨界相図と比較検討して探求することは、二次元強磁性近藤格子系における新奇な量子臨界現象の研究に新たな指針を与えるものと期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
強磁性量子臨界点(QCP)近傍物質Ce(Fe,Ru)POおよびCe(Fe,Cr)POの単結晶試料を自己フラックス法にて作製を試みる。鉄系超伝導体などの混合アニオン化合物ではSnやNaCl・KClの液相を使用したフラックス法による単結晶育成が知られている。この場合、フラックス中へ目的物質の構成元素が流出するため、得られた結晶の組成の決定は、一般に困難である。これらの問題を解決するため、構成元素による化合物そのものの液相を利用した自己フラックス法により、純良な単結晶の育成を試みる。得られる試料は、100μm程度の大きさであると予想されるがが、顕微鏡とマイクロマニピュレータを利用することで電極付は可能である。 純良試料において、三次元の金属強磁性QCPに対する理論的に予言されている、電気抵抗率ρ∝A(Tの5/3乗)や比熱C/T=a-b×logT(A, a, bは定数)といった非フェルミ液体的な温度(T)依存性が極低温で観測されるのか?近藤格子系において、強磁性秩序を消失(自発的対称性の破れが回復)させ大きな量子ゆらぎを発生させたときに、感受率、電気抵抗、比熱などの低温での振舞いにどのような異常が現れるのか?その振る舞いは、守谷のSCR理論では理解できるのか?完全に異なる温度依存性(臨界指数)をもつのか?純良単結晶の精密物性測定・解析は、これらの問いに答えてくれるであろうと考えている。また、共同研究を計画している京都大学石田グループ、及び京都大学原子炉実験所北尾グループと協力して、31P NMR、及び57Feメスバウアー分光測定により元素選択的な微視的な磁性の評価を行い、二次元強磁性近藤格子系Ce(Fe,M)PO (M=Ru, Cr)における電子状態相図の作製を行う計画である。
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