2016 Fiscal Year Research-status Report
電荷秩序およびスピン転移を示す強相関物質における光誘起量子ダイナミクスの理論
Project/Area Number |
26400377
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
妹尾 仁嗣 国立研究開発法人理化学研究所, 古崎物性理論研究室, 専任研究員 (30415054)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 電荷秩序 / 光誘起相転移 / スピン転移 / 量子ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、強相関電子系の示す電荷秩序下にともなう金属絶縁体転移やスピン状態変化転移など基本的な相転移現象をみせる分子性物質群を対象として、短パルスレーザー光の照射による光誘起量子ダイナミクス現象の基礎的な理論をボトムアップ的に構築することである。 その中で本年度は、実験的に長いタイムスケールでしばしば議論されるドメイン構造がどのように生じるか、初期過程に関するシミュレーションを開始し進めている。1次元スピンレスフェルミオンモデルに対して、平均場近似による実時間量子ダイナミクスシミュレーションを行うことにより、十分に大きなクラスタサイズに対する計算を行うことができる。その結果、偶数サイトのクラスタに対しては、レーザーの強度に応じて電荷秩序が単調に融解する結果が得られたのに対して、奇数サイトのクラスタに対しては巨大な融解の応答がみられた。これは、奇数サイトの場合の平衡状態が電荷秩序の2倍周期との不整合性によりキンク(ドメイン壁)が存在するためである。そのためそもそも一様な電荷秩序に比べてレーザー光強度が小さい領域から大きい応答を見せ、またパラメータによっては実空間上に電荷秩序の崩壊した領域が広がっていき最終的に電荷秩序の融解がおきる。 また、関連する課題として、光誘起現象の代表的なターゲット物質である中性イオン性典型の相競合とドメイン励起について調べが。位相ハミルトニアンを高次の項まで含めて構築し、これに反古典近似を適用し基底状態相図や相境界での特徴的なドメイン壁の構造の安定性を調べた。とくに、従来の理論では得られなかった中性イオン性状態間の1次転移を記述することができ、そのため中性イオン性ドメイン壁の実空間上の構造や、励起エネルギーのパラメータ依存性を解析的に求めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である、強相関電子系の示す電荷秩序下にともなう金属絶縁体転移やスピン状態変化転移など基本的な相転移現象をみせる分子性物質群を対象として、短パルスレーザー光の照射による光誘起量子ダイナミクス現象の基礎的な理論をボトムアップ的に構築しguiding principleを提示することに対し、現在までの進捗状況としてはおおむね順調に進展している。 軸といなる相互作用する電子系のモデルに対する量子ダイナミクスシミュレーションは昨年度に引き続き今年度も確実に進めており、とくにドメイン生成のメカニズムに迫るところまで見えてきた。 一方で第一原理計算は関連する分子性導体系の計算が予期していなかった要因で時間がかかってしまい、スピン転移系に適用することは来年度以降へと持ち越しとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、これまでの研究をそのまま継続して進展させていきたい。電荷秩序系の量子ダイナミクスシミュレーションについては来年度中に論文にまとめ、また第一原理計算も遂行する。
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Causes of Carryover |
現在研究室の計算機環境でシミュレーションをできる状況にあるため、計算機の購入を差し控えた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度以降、必要となった際に最新の計算機を購入する。また今後成果発表が期待できるので、学会・国際会議への参加費や論文の執筆費が必要になる。
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