2015 Fiscal Year Research-status Report
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26410012
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
吉井 範行 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70371599)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 分子シミュレーション / 自由エネルギー計算 / ミセル / 脂質膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、ミセルの膜への融合メカニズムの解明を目指した研究を開始した。まずはミセルと膜との親和性を評価するために、バルクの水中にある界面活性剤がミセル中および膜中とに移行した場合の自由エネルギー変化を評価した。バルク水中からミセル中への移行の自由エネルギーをΔGm、バルク水中から膜中への移行の自由エネルギーをΔGbとすると、ミセルと膜との自由エネルギー差は、ミセルを基準としてΔGb-ΔGmである。ここでは、界面活性剤として、イオン性、非イオン性、両性イオン性及び非イオン性の界面活性剤として、SDS、DTAC、DDAOおよびC12E8を選び、また脂質分子としては生体膜のモデルとしてPOPCを選んだ。複数の界面活性剤分子をターゲットとすることによって、効率的に膜への親和性の高い界面活性剤分子の探索を行った。さらに界面活性剤分子のヘッドグループの違いによる膜への親和性の差異に関して分子論を展開した。 並行して、ミセルの膜への結合・融合過程の平均力ポテンシャル計算を進めた。自由エネルギー計算には、平均力計算による方法およびWHAM法のいずれが適しているかについての事前検討を行った。ミセルと膜が融合する前後で対象系のトポロジーが変化する。したがって、融合により反応座標の連続性が失われる。本研究では、膜表面へのミセルの結合と、それらが融合して一体化してしまう状態との間の遷移状態について、近似的な取扱をすることによって連続的に結び付ける試みを行った。 これらの計算は自由エネルギー計算が主であるため、計算負荷がきわめて大きい。短期間での効率的な実施を可能とするために、本課題で導入したコンピュータの他に、分子科学研究所計算科学研究センターのスパコンを併用しつつ研究を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた2種類の計算、すなわち、ミセルと膜の間の界面活性剤分子の移行自由エネルギー計算、およびミセルと膜との融合シミュレーションのいずれも実施できたため。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までに得られたミセルと膜の融合の平均力ポテンシャルに加えて、膜近傍でのミセルの拡散性の評価を行うことにより、膜融合のキネティクスを明らかにする。原理的にはミセル・膜の融合現象は動的NMRによって観測可能であるが、実際に観測された例は知られていない。本計算で得られたキネティクスの知見をもとに、NMRによる観測可能性の評価を行い、測定可能な場合にはNMRの測定パラメータの提案や、得られるシグナルの形状の予測を行う。 さらに得られた平均力ポテンシャルやメモリー関数をもとに、ミセル・膜系のランジュバン動力学シミュレーションを行い、膜近傍でのミセルの分布や融合の頻度についての大規模シミュレーションを実施する。得られた計算結果について可視化し研究成果を内外に発信する。
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Causes of Carryover |
すでに利用中のデータバックアップシステムを活用することにより、平成27年度に導入を予定していたハードディスク及びレイドシステムの導入を見合わせることができた。これにより、本年度は未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
データバックアップシステムはそろそろ容量的に限界にあり、また研究実施概要でも述べたとおり、研究の進捗に伴い計算量が当初より増えたため、取り急ぎバックアップ用のハードディスクが必要である。前年度未使用分はこの経費に充てる。
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