2015 Fiscal Year Research-status Report
建築物の耐衝撃設計における人的被害低減と構造安定性維持のためのアプローチ
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26420552
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
向井 洋一 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70252616)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
濱本 卓司 東京都市大学, 工学部, 教授 (10228546)
西田 明美 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, その他部局等, 研究員 (40228185)
中村 尚弘 株式会社竹中工務店 技術研究所, その他部局等, 研究員 (50416640)
櫛部 淳道 株式会社竹中工務店 技術研究所, その他部局等, 研究員 (00416603)
崎野 良比呂 近畿大学, 工学部, 准教授 (80273712)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 衝撃荷重 / 非構造材 / 耐衝撃設計 / モーションキャプチャ / 可視化 / 高速ビデオカメラ / 振動台実験 / 変位計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では、衝撃荷重を受ける建築物の耐衝撃設計法のフローにおいて、人的被害の軽減と想定外作用による建物全体システムに及ぶ崩壊現象の2点に対して、具体的な対策を検討していくためのバックデータ収集を目的としている。そのために、(1) 衝撃作用による「ガラスなどの非構造材の破壊状況」の可視化手法の検討、(2) 建築物への衝撃作用により「建物に生じる衝撃応答」の可視化手法の検討に取組んでいる。 (1)について、初年度には、衝突物により破壊を生じたガラス破片の飛散を想定し、積層したブロック状の試験体に衝撃作用を与えた場合にブロックピースが飛び出す様子について、高速カメラの動画解析による推定変位と実際の変位との整合を確認した。この結果を受けて、次年度には、小面積のガラス窓試験片に衝突作用を生じた際のガラスの損傷状況を高速カメラで記録する試験装置を製作し、予備検証を実施した。 (2)について、初年度は、通常のビデオカメラで撮影された振動台実験の画像を利用して、その際にセンサーで直接計測された変位データと映像解析により再現した運動の推定値との誤差評価を行うとともに、精度向上の手法について検討した。この結果を受けて、次年度には、通常カメラ(スマートフォン)で偶発的に撮影された建築物の動的な挙動により、建物の運動状態を追尾し、振動特性を評価するための手法とその精度の検証を行った。 さらに、 (1)と(2)の双方に関して、平成27年度より、構造体に衝突作用が生じた際に、衝撃作用を受ける部材から周辺部材への応力伝達を高速カメラにより追尾する計測システムの構成とその精度検証のために、免震構造物を想定した実験用試験体により、免震構造物が擁壁に衝突する挙動を模擬した振動台実験を行い、その衝突状況を高速カメラで記録し、衝突部に生じる変位・速度・加速度の推定と必要なフィルタ処理について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)に関しては、実規サイズのガラス窓材の試験体への衝突事象を想定した破壊実験を平成27年度に予定していたが、実験施設の借用時期の調整と実験時の安全性確保のための追加検討に時間を要したために、実験実施が最終年度に延期された。そこで、平成27年度には、小面積のガラス試験片に衝突作用を生じさせ、その損傷状況を高速カメラで記録する試験装置の製作を行い、予備検証を実施している。これにより、実規サイズのガラス材の試験体の衝撃破壊に関する高速カメラ撮影の準備が整い、最終年度にガラスの破損による破片の飛散状況の動画を直接収集できる見込みとなった。 (2)に関しては、偶発的に撮影された建築物の動的挙動から、直接的な運動を再現することについて、撮影状況(撮影時間、撮影アングル、手ぶれ、参照点の撮り込みの有無、など)によっては、十分な精度を確保することが難しい場合が多いことが明らかになった。とりわけ、建物の崩壊時に関する動画では、撮影時間が短時間で、破壊進行時において粉煙が発生するため、映像上のマーカを追尾することが困難となることが多いことがわかった。ただし、建築物の動特性や局所的な破壊・応力発生などの情報については、これらの動画から収集できる可能性はあり、最終年度についても、引き続き通常カメラによる動画を用いた画像解析の取組みを継続する。 以上により、実験の進捗については、ガラス破壊実験の実施年度の遅れが生じた点、進行性崩壊の検証において、解像度が荒く継続時間も短い映像に対してはマーカの追尾困難となる点等、当初計画の進捗に影響する問題が生じたため、研究計画の達成状況はやや低く評価した。ただし、建物への衝撃作用と全体応答の関係に関する検証については、高速カメラ映像による衝突時の衝撃応答評価、通常カメラによる建物の動的挙動抽出の手法検討として、最終年度に達成できる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
非構造材の損傷による人的被害状況の評価法と設計クライテリアの提案に向けて、ガラスの破壊状況のモーションキャプチャ実験を実施する。ガラス窓の試験体の厚み、衝突体の重量、衝突速度をパラメータとして、衝突実験を実施し、それぞれのケースのガラスの損傷と破片の飛散状況を高速カメラで撮影し、モーションキャプチャによる運動追尾を行う。これらの実験パラメータに応じて、損傷パターンを類型化した上で、現象を再現できるようなFEM解析モデルの構築に取組む。 また、建築物の構造安定性の維持性能の評価に関しては、既存の動画を利用して、進行性崩壊の状況を時系列で精度よくデータ化することは困難であることがわかったが、崩壊現象にかかわらず、通常カメラでとらえられた、建築物に生じる偶発的事象の動画から、建築物に作用する荷重や建築物に生じる挙動を評価する手法を構築する重要性と意義が示唆される。そこで、衝突や過大な地震作用など、想定外作用を受けた建築物の運動や破壊挙動の動画(スマートフォンでの撮影の状況を想定)により、建築物の構造評価に結び付く情報を抽出する手法を検討していく。あわせて同じ条件での繰り返し再現撮影ができる実験条件のもとで、映像の撮影方法や撮影角度などを変えた撮影実験を行い、モーションキャプチャの再現精度の向上に関する課題検討を引き続き行う。 さらに、「耐衝撃設計の考え方」に本研究成果をフィードバックするために、海外構造設計基準図書等による情報収集から設計クライテリアの参考用根拠資料を取りまとめるとともに、本設計手法で提案されている性能評価法と他の設計基準との相違についての総括を行う。本研究の実施成果を踏まえ、「非構造材の性能評価と被害低減」、「建物に作用する衝撃作用の評価法」について、本研究課題により得られた結果をデータベース化し、「耐衝撃設計の考え方」の補足資料としてとりまとめる。
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Causes of Carryover |
平成27年度に実施を予定していた実規サイズのガラス窓材の試験体への物体の衝突を想定した破壊実験(民間企業の研究所施設の借用を予定)の実施時期を平成28年度に延期する必要が生じたため、実験施設までの出張旅費等の必要経費を次年度に持ち越す必要があった。ただし、それ以外の経費の執行に関しては、当初の見積額と実際の使用額に大きな相違はなく、予算の執行に関しては、概ね計画どおりに使用されている。なお、平成27年度におけるこのような事情により、残余金は、翌年度に使用することが妥当と判断している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の助成金と合わせて適切に使用するが、平成27年度に実施を予定していた実規サイズのガラス窓材の破壊実験のための実験施設への出張旅費分に関しては、延期した平成28年度に実施することが決定しており、当該分の使用計画自体は、あらかじめ予定されていたとおりである。従って、助成金全体に関する当初の使用計画に変更と影響は生じていない。
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