2017 Fiscal Year Research-status Report
名勝庭園内に所在する歴史的建造物の保存活用に関する基礎的研究
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26420642
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
光井 渉 東京藝術大学, 美術学部, 教授 (40291819)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 名勝庭園 / 歴史的建造物 / 文化財保護 / 滋賀院 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、優れた人文的な景観を有する名勝庭園に所在する歴史的建造物の保存の在り方を、国指定名勝庭園における指定範囲の確認と現状調査を通じて検討を行うものである。平成29年度に行った研究内容は以下の3点である。まず第1には、歴史的建造物が所在する国指定名勝庭園112件に対して前年度までに行ったアンケート調査のとりまとめに依拠した分析作業であり、今後の名勝庭園の保全への提言を行うための準備作業である。次いで2番目は名勝庭園の実施調査であり、平成29年4月に東京都内2所(小石川後楽園・六義園)・8月に滋賀県内5所(福田寺庭園・金剛輪寺庭園・西明寺庭園・百済寺庭園・福寿寺庭園)・同8月に茨城県内2所(偕楽園・水戸徳川氏西山御殿)・同8月に福島県内3所(会津松平氏庭園・白水阿弥陀堂庭園・南湖庭園)、平成30年2月に山口県内5所(防府毛利氏庭園・山水園・常栄寺庭園・善生寺庭園・宗麟寺庭園)、の計17所について実施した。この調査は指定範囲や歴史的建造物の現状、特に過去の実測図等から改造が行われたことが確認できる部分に重点をおいて実施したものである。3番目は、前年度までに詳細調査を行った滋賀院庭園に関する学術論文の作成作業であり、実地調査の成果に加え、比叡山文庫が所蔵する近世の文献および図像史料の検討内容を加えて行った。ここでの分析内容は、17世紀に作庭された庭園自体は現存するが、その庭園と密接な関係を有する隣接建築群が明治初期に全焼し、その位置には他から移築された建築が所在しているために、庭園の有する意味及び景観が変容し、さらに建築の移築後に相互の調整が行われていることを実証したもので、庭園と建造物の相互調整の過程を含めて有意義な成果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、本来密接な関係の中で創造されたはずの庭園と建造物が、名勝と有形文化財という別カテゴリーの文化財種別として管理されている状況を批判的に捉え、両者を統合的に扱うために有効な資料及び指針案の作成を第一の目的とし、その検討の中で、名勝庭園の具体的な形成過程を検証する個別研究を行うことを目的として実施している。この全体計画の中で、平成29年度までに全国の名勝庭園に関する基礎情報の収集とその取りまとめを完了し、実地調査に関しても平成29年度には17所について実施し、本年度予定していた件数を達成し、個別事例検証に関しても1件について学術論文を作成して発表を行った。したがって、当初予定していた研究計画をおおむね達成し、研究は順調に進展しているとみなしている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度である平成30年度には、すでに収集及びとりまとめが終了した名勝庭園に関する基本情報をベースとして分析を行う予定であり、名勝庭園に関する情報を相互比較が可能なように提示する報告書の作成まで実施する。また、個別詳細検証に関しても、滋賀院に関する検証を深めて、学術論文を作成する予定である。実地事例調査に関しては、今年度は補足的な観点から行う予定としている。
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