2016 Fiscal Year Research-status Report
ゴシック壁面線条化の始動段階においてリブヴォールトが果たした主導的役割の立証
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26420652
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Research Institution | Daido University |
Principal Investigator |
佐藤 達生 大同大学, 工学部, 教授 (40131148)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 線条化 / ゴシック建築 / イール・ド・フランス / アングロ・ノルマン / 入隅シャフト / 独立性 / 断面形状 / 実測 |
Outline of Annual Research Achievements |
ゴシック建築の最も重要な特質は身廊壁面の線条性にあることから、この特質の獲得過程がゴシック建築形成の主要な過程をなすと考えられる。本研究の目的は、(1)この過程を始動させたのはリブヴォールトの導入であること、(2)この過程は、ゴシック誕生地のイール・ド・フランス地方だけで起こったことを、立証することである。 線条化の傾向を最もよく表しているのは、身廊壁面を構成するシャフトであることから、筆者はこれまで、それらのシャフトを統合した複合柱の断面形状を計測してきた。線条化の度合いは、これらのシャフトの壁面からの独立の程度によって決まるが、複合柱についていうならば、ノルマンディーなど他の地方の入隅シャフトは入隅に貫入するのに対し、イール・ド・フランスの入隅シャフトは、入隅に内接する点で独立性が高い、すなわち線条性が強い。複合柱の入隅シャフトのこのような特徴は、身廊に関する限り、イール・ド・フランスのリブヴォールトを架ける教会堂だけに見られることが、これまでの調査で明らかになっている。本研究は、身廊以外の初期のリブヴォールト架構部分を調査することによって、この特徴がリブヴォールトの導入によってイール・ド・フランスだけで起こった、とする仮説を立証しようとするものである。 しかし平成26年度のノルマンディー、イギリスの教会堂側廊部分の調査から、上記仮説に反する事例が見つかったことにより、仮説の修正を余儀なくされた。すなわち、「本研究の仮説が教会堂の身廊に関して成立すること」を立証することに、目的を修正した。こうして、平成27年度は9月26日~10月6日の実質11日間、イール・ド・フランスの15棟の教会堂について、身廊の支柱細部の計測をおこなった。なおこれらの教会堂は、かつて一部の支柱について実測を行っているが、27年度は、未実施の支柱について実測をおこない、より精密なデータを取得した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目的の修正によって、教会堂の部位を限定したことから、調査対象が絞られ比較的効率よく調査することができた。昨年度までの調査実施教会堂は、イール・ド・フランス、ノルマンディー、イギリス合わせて33棟にのぼる。これまでの調査から、身廊に限定する限り、本研究の提唱する仮説に矛盾しない結果が得られている。すなわち、身廊に関するかぎり、イール・ド・フランスでは、身廊壁面を上昇するシャフト(壁面シャフト)は、リブヴォールト架構以降に現れており、そのうち、複合柱の入隅に内接するシャフトは、イール・ド・フランスのリブヴォールトに対応していることが、ほぼ確実となった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの調査で、研究目的はほぼ達成されたと思われるが、データの精度を高めるために、未調査であった少数の教会堂を含めて、16棟程度の教会堂の支柱の実測を行う。調査は、6月末~7月初旬および9月の2回に分けて行う。昨年度は、とくにAmiens大聖堂のトリフォリウムでの調査(大聖堂管理局からの公式の調査許可を取得)を行い、組積造部分の精密な目視観察を行った。教会堂高所での目視調査は、これまでParis大聖堂、Chartres大聖堂でおこなった実績があるが、ヴォールト・シャフトの組積造の細部を間近で観察することができ、きわめて有益であった。本年度は、さらにLaon大聖堂、Reims大聖堂、Lyon大聖堂の高所での目視調査を実施し、ヴォールト・シャフトと身廊壁面との接合の仕方について、一応の見解を得る予定である。 研究計画最終年度であることから、これまでの支柱の実測プロファイルをすべて図化し、それらを含めた成果を論文の形式でまとめる予定である。論文の作成に当たっては、Lyon大学第2のニコラ・レヴェロン教授(ロマネスク建築の専門家)とParisソルボンヌ大学のダニー・サンドロン教授(ゴシック建築の専門家)との意見交換を予定している。
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Causes of Carryover |
助成金配分初年度(平成26年度)に、勤務大学の役職者(副学長)に任命されたため、予定していた現地調査の日程が確保できず、この年度の旅費の支出が減少した。この残額の一部は27年度と28年度に消化できたものの、すべてはしきれず29年度に繰り越すこととなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
これまでの残額を29年度の調査旅費に加算して使用する。幸い29年3月末をもって副学長職を解かれたため、調査研究に十分に時間を費やすことが可能な状況にある。
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Research Products
(1 results)