2016 Fiscal Year Research-status Report
iPS細胞を含む生殖機能細胞のエネルギーフリー長期室温保存に関する研究
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26430207
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
多田 昇弘 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (50338315)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | マウス / 受精卵 / ES細胞 / iPS細胞 / 真空乾燥 / 室温保存 / エネルギーフリー / トレハロース |
Outline of Annual Research Achievements |
受精卵、未受精卵、ES細胞及びiPS細胞等の生殖機能細胞は、貴重な遺伝資源であり、これらの細胞の保存は、液体窒素中での凍結保存が一般的である。しかし、この方法は、液体窒素などのエネルギーが必要であり、非常時には、補給困難になり、貴重な細胞が失われる可能性がある。また、凍結保存用の液体窒素タンク内に細胞を保存するため、保管場所として相応のスペースを確保する必要がある。そこで、これらの生殖機能細胞をエネルギーフリーで保存でき、しかも保存場所を考慮せずに、どこでも保管できるような新規な保存法(真空乾燥・室温保存法)を確立することを目的として本研究を行った。 平成28年度は、マウス初期胚、特に桑実期胚についてトレハロースを含む保存液の最適な濃度及び真空乾燥・室温保存の条件を検討した。また、トレハロースを含む保存液に、細胞の酸化を防ぐためにエピカテキン、アスコルビン酸、ウシ血清アルブミン及びデキストラン40を種々の濃度で添加し、これらの保存液についてマウス桑実期胚の真空乾燥・室温保存における効果を確認した。PB1, M2, TE及びmCZB-hepesを基本保存液として、トレハロース、エピカテキン、アスコルビン酸、ウシ血清アルブミン及びデキストラン40を種々の濃度で加え、胚を入れて真空乾燥し、室温下にて1日保存した後、復水させたところ、生存している胚は得られなかった。また、ES細胞(E14TG2a)を用いて同様に保存したが、復水・培養後、コロニー形成は認められなかった。トレハロースは、乾燥によりガラス化を生じていたが、胚及びES細胞の顕著な萎縮及び細胞膜破壊が認められたことから、脱水が不十分であり、細胞質及び細胞膜に何らかの障害が生じたものと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
生殖機能細胞である精子は、頭部と尾部に分かれており、頭部は、核だけで、細胞質はほとんどないことが知られている。細胞質内のミトコンドリアなどは頭部と尾部の間にある中片部に含まれている。精子の真空乾燥・室温保存は、可能であり、室温保存2年の精子からでも正常な産仔が得られている。このことは、精子頭部に含まれる核が正常であれば、受精する能力を有し、正常な個体へと発生することができることを示している。しかし、受精卵、ES細胞及びiPS細胞は、精子とは異なり、細胞内に核及び細胞質があるため、特に細胞質の障害が、その後の生存性に影響を与えることが考えられる。本研究でも、胚(桑実期胚)は、液状保存では低率ながら生存できるものの、真空乾燥後の室温保存では、完全に死滅することがわかった。トレハロースは、乾燥に極めて高い耐性をもつネムリユスリカの幼虫が大量に体内に蓄積していることで知られており、乾燥時、水の代わりに生体成分を保護していることがわかっている。このことから、細胞内の核及び細胞質を真空乾燥から保護するためには、トレハロースを細胞内に取り込ませることにより、乾燥時に細胞内を水分子と置換させ、生体成分を保護し、乾燥による障害を防げることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
トレハロースをマウス受精卵、ES細胞及びiPS細胞の細胞内に取り込ませる方法を検討し、取り込み後の細胞について真空乾燥・室温保存を試み、復水後の生存性及び発生能を確認する。具体的には、トレハロースを特異的に輸送するトランスポーターであるトレハローストランスポーター1 (Tret1)遺伝子をゲノム編集の技術(CRISPR/Cas9システム)を用いてマウス受精卵のセーフハーバー遺伝子領域(ROSA26 locus)に挿入(ノックイン)する。Tret1遺伝子を挿入された受精卵を移植して当該遺伝子を発現するマウス(Tret1-KIマウス)を得る。Tret1-KIマウス由来の受精卵は、細胞膜でTret1蛋白質をつくり、培養液に含まれるトレハロースだけを細胞内へ効率良く取り込むことが期待される。一方、Tret1遺伝子を有しない、マウス受精卵をトレハロースを含む緩衝液に入れ、電気的に細胞膜に穴を開ける方法(電気穿孔法;エレクトロポレーション)によりトレハロースを細胞内に取り込むことが可能かどうかを確認する。このような方法によりトレハロースを取り込んだ受精卵を真空・乾燥させ、室温保存後、復水によりリカバリーした受精卵の形態を観察すると共に培養及び移植による発生能の正常性を確認する。また、Tret1-KIマウスの受精卵あるいは胎児線維芽細胞より各々ES細胞あるいはiPS細胞を樹立し、これらの細胞の真空乾燥・室温保存後の生存性を確認する。あるいは、既に樹立されているマウスES細胞及びiPS細胞を用いてエレクトロポレーションによるトレハロースの細胞内取り込みを試みる。その後、トレハロースを取り込んだES細胞及びiPS細胞について真空乾燥・室温保存後の生存性を確認する。
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Causes of Carryover |
物品費として、主に動物代(マウス)、マイクロチューブ、チップ、カルチャーディッシュ、保存用チューブ、試薬(トレハロース等)、遺伝子構築費、及び図書等に支出した。動物実験施設の増改築のため、実験ができない時期があり、次年度の使用額が生じてしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費は、動物代、マイクロチューブ、チップ、カルチャーディッシュ、試薬(トレハロース、カテキン、抗酸化剤、流動パラフィン)、培養液(PB1, M2, mCZB-hepes, ES培養液)、エレクトロポレーションに使う緩衝液、エレクトロポレーション用電極、ゲノム編集用ガイドRNA合成, Cas9mRNA, ドナーベクター等の購入に充てる。また、得られた研究成果は、日本実験動物学会、日本繁殖生物学会及び日本分子生物学会等に発表する予定であるが、その旅費に充てる。更に、論文化し、国際ジャーナルへの投稿料、校閲料等に充てる予定である。
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[Journal Article] Cathepsin D in Podocytes is Important in the Pathogenesis of Proteinuria and CKD.2016
Author(s)
Kanae Yamamoto-Nonaka, Masato Koike, Katsuhiko Asanuma, Miyuki Takagi, Juan Alejandro Oliva Trejo, Takuto Seki, Teruo Hidaka, Koichiro Ichimura, Tatsuo Sakai, Norihiro Tada, Takashi Ueno, Yasuo Uchiyama, Yasuhiko Tomino
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Journal Title
J. of the American Society of Nephrology
Volume: 27(9)
Pages: 2685-2700
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Acknowledgement Compliant
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