2015 Fiscal Year Research-status Report
細胞群の物理的強度差が生み出す脊椎動物初期胚の神経領域規定メカニズム
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26440115
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
道上 達男 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (10282724)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 細胞張力 / FRET / 細胞骨格 / アクチン結合タンパク質 / 細胞形状 / ツメガエル / 外胚葉 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)新規張力プローブ評価と胚における張力の実測:平成27年度では、培養細胞、及びツメガエル胚を用いた更なるプローブ評価を行った。まず、コントロールプローブと比較することで、用いた張力プローブが張力依存的にFRET値を変化させていることが分かった。次に、薬剤処理、あるいは浸透圧変化を与えることで、FRET値が変化することも確認した。FRAP実験と併せ、以上により張力プローブのバリデーションを完了した。次に、ツメガエル胚に張力プローブを導入し、原腸胚期~神経胚期における張力変化を調べたところ、興味深いことに神経・表皮外胚葉間で明らかに細胞張力に違いがあることを見出した。以上のことは、原腸陥入運動におけるツメガエル胚の外胚葉に何らかの違いがあり、それが張力変化を導き出していることを示唆している。 (2)外胚葉細胞におけるアクチン結合タンパク質の分布とその役割の解析:神経・表皮外胚葉間でのアクチンの配向性の違いを検討したが、大きな差は見出されなかった。また、アクチン結合タンパク質についても、現在のところ神経―表皮間で大きな差は見出されなかった。ただ、アクチニンをモルフォリノオリゴによって欠損させた外胚葉では、体軸縮退・湾曲が見出され、原腸形成に重要な役割を果たしていることを明らかにした。同じくアクチン結合タンパク質であるmoesinについては、引き続き解析を継続している。 (3)神経・表皮外胚葉を細胞形状により区別する試み:原腸胚~神経胚期における神経・表皮外胚葉(膜局在性GFPで標識)の細胞形状データから、神経・表皮外胚葉に属する各細胞の面積、長短軸比、正中線との角度などの情報を抽出して比較した結果、神経・表皮外胚葉間で明らかな違いが存在することを見出した。細胞形状は細胞にかかる張力と密接な関係があり、この結果は各外胚葉に力学的特性の差が存在することを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
FRETプローブによる張力計測に関しては、ツメガエル胚ではっきりとした神経―表皮外胚葉間での違いを観察することができたのは非常に大きな進展である。これまで、張力実測がこのような形、すなわち固定していない生きた状態で全胚の張力を直接実測した例はほとんどなく、今回得られた結果が世界に先駆けたものであることを示している。現在、培養細胞・胚を用いたプローブ評価の結果を併せ、論文を投稿中である。一方、細胞骨格そのものの配向性については、予想していたほどの成果をあげることができたとは言い難いが、本プローブに用いたアクチン結合タンパク質であるActininα1の機能解析の結果、外胚葉におけるActininの存在が初期胚の形態形成運動に重要であることが示されたが、これまでツメガエル外胚葉における役割について既出の論文が多くなく、来年度にむけて本課題の研究進展につながる端緒となったと考える。 また、細胞にかかる張力と密接に関連がある個々の細胞の形状を網羅的に解析する系を確立し、更には一見すると違いが見出されない原腸胚~神経胚における神経―表皮外胚葉細胞間の形状に特徴がある可能性を見出すことができた点も大きな研究の進展であり、来年度の研究遂行に向けて非常に大きな材料となった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度においては、別のアクチン結合タンパク質を利用した新たなFRETプローブを作成して評価し、張力実測ができそうであれば、現在用いているプローブと同様、ツメガエル胚に適用する。アクチニンは主にFAに局在することが多いが、新たに用いているαカテニンやEPLINは主にAJに局在すると考えられ、本解析により適したプローブとなることが期待される。 細胞骨格配向性の検討については、昨年度他グループより細胞の頂端面に配置される微小管の配向性が細胞分裂の方向に重要であることが報告された。我々も、特に微小管配向性と張力の強弱の関係について、例えばCy5ラベルされたSiR-tubulinなどを用いることで調べていきたい。また、アクチン結合タンパク質が実際に外胚葉細胞の張力に影響を与えるかどうかの検証については、現在解析を始めているアクチニン・ビンキュリンについて、更にはαカテニン・EPLINについても進めていく予定である。 更に、細胞形状プロファイリングについても、更に様々な観点(例えば細胞分裂方向、接触細胞数など)で進め、やはり神経-表皮外胚葉間の違いの有無を明らかにするとともに、現在用いているFRETセンサー注入胚を用いて細胞張力との直接比較を行うことで、細胞の張力と形状が外胚葉のパターニングとの関連性、更には両者の細胞運動の違いが生じる原因などについても明らかにしていきたい。
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Causes of Carryover |
物品費として計上していた分のうち、研究の進展が遅れた分(細胞骨格配向性に関する解析)について次年度に繰り越して研究を遂行したいため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記に記述した理由の通り、物品費として使用したい。また、学会参加にかかる海外出張費が当初計画より増加する可能性があるので、その経費に使用したい。
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Research Products
(6 results)