2014 Fiscal Year Research-status Report
温暖化が自然共生型水田淡水生物の相互作用とその多様性及びイネの生育に及ぼす影響
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26440229
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
安田 弘法 山形大学, 農学部, 教授 (70202364)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
粕渕 辰昭 山形大学, その他部局等, 名誉教授 (00250960)
佐藤 智 山形大学, 農学部, 准教授 (70444023)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 温暖化 / 水田湛水生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
2013 年9月のIPCC 予測によると地球温暖化は加速している。温暖化がもたらす影響は、生物によって異なる。この影響の相違は、生物間相互作用に働き、生態系の動態を変化させる可能性がある。水田湛水には、藻類やタニシ等の多くの淡水生物が生息し、これらの生物由来の窒素は、イネの生育に重要な役割を果たしている。このような生物の機能を活用し、無化学肥料・無農薬・無除草剤でイネを栽培する方法が「自然共生型水稲栽培」である。温暖化は、水田湛水生物の個体、個体群、群集レベルを通じ、多様性の維持やイネの生育に影響を及ぼすと思われる。申請研究では、実証的及び理論的研究を組み合わせて「温暖化が自然共生型水田淡水生物の相互作用とその多様性及びイネの生育に及ぼす影響」の解明を目的としている。 H26年度は、温暖化により水田淡水生物のキーストーン種タニシの個体群特性が変化することを想定した要因実験を実施した。実験は、20℃から32℃までの5温度区を設定し、温度変化がタニシの発育、生存、産子に及ぼす影響を明らかにした。その結果、温度の上昇により成体及び幼体のタニシは成長が促進されたが、生まれたばかりの幼体は、温度の増加により生存期間が短くなり死亡した。また、生まれた幼体数は、中間温度の26℃で最高となり温度がそれ以上でもそれ以下でも減少した。さらにタニシの餌である藻類の生育における温度の影響については、温度の増加により藻類量が増加する傾向があった。藻類の増加は、タニシの糞量と正の相関があり、タニシは高温で糞の量が多かった。高温は、タニシの糞量を増加させ、それが、藻類の発育に正の間接的な影響を及ぼしていることが示唆された。タニシは、イネの生育や淡水生物の個体数や分布に影響を与える淡水のキーストーン種と考えられるので、今後は、温度の上昇が、タニシと他の淡水生物の種間相互作用に及ぼす影響などを解明する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「温暖化が自然共生型水田淡水生物の相互作用とその多様性及びイネの生育に及ぼす影響」を実証的及び理論的に解明するために、H26年度は20℃、23℃、26℃、29℃、32℃の5温度区で、温度がタニシの発育、生存、産卵に及ぼす影響を解明した。その結果、温度増加ととも成体及び幼体のタニシは成長が促進されたが生まれたばかりの幼体は、温度の増加とともに生存期間は短縮された。また、生まれた幼体の数は、中間温度の26℃で最高となり、温度がそれ以上でも以下でも減少した。さらに、タニシの餌である藻類の生育における温度の影響については、温度の増加とともに藻類量が増加する傾向があった。藻類の増加は、タニシの糞量と正の相関があり、タニシは高温で糞の量が多く、これは、藻類の発育に正の影響を及ぼしていると考えられた。タニシは、イネの生育や淡水生物の個体数や分布に影響を及ぼす淡水のキーストーン種と考えられる。このようなタニシの生育や生存及び繁殖に及ぼす温度の影響を解明できたことからH26年度の研究は、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、H27年度は以下の実験を中心に実施する。 1)個体レベルでの実験:人工気象器を用いて20℃、26℃、32℃の3温度に設定し、糸状藻類、微小藻類、タニシ、ユスリカ幼虫、オタマジャクシ、ドブシジミ、モノアラガイ等の供試生物の発育と生存に及ぼす水温の影響を明らかにする。タニシ等の5種は、藻類を餌とし、土とイネの稚苗を植えたプラスチック容器(供試容器)の中で飼育する。発育に関しては、藻類はバイオマスをその他の生物は生体重の増加を調べる。各処理区の反復は20とする。 2)個体群レベルの実験:前述の各温度条件下でタニシ等5種の淡水生物を供試容器当たり、1、2、4、8の密度に設定し、温度と密度が供試生物の生存と発育に及ぼす影響を解明する。各処理区の反復は20とする。 3)群集レベルの実験:前述の各温度条件下でタニシ等5種の淡水生物を供試容器当たり、組み合わせの種と密度を変えて、温度と種間競争が各種の生存と発育に及ぼす影響を解明する。各処理区の反復は20とする。
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Causes of Carryover |
当該年度に恒温器の購入を予定していたが、現存の恒温器で実験を実施したので購入しないこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に物品費及び謝金などとして使用する予定である。
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