2015 Fiscal Year Research-status Report
中国新石器時代長江下流域における農耕適応戦略の自然人類学的研究
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26440259
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
岡崎 健治 鳥取大学, 医学部, 助教 (10632937)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
米田 穣 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (30280712)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 古病理学 / 脊椎カリエス / 水田稲作 / 新石器時代 / 長江下流域 / 中国 / 復顔 / 抜歯 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、これまで資料空白地域であった新石器時代長江下流域に位置する広富林遺跡から2010年に出土した人骨150個体を整理・資料化し、基礎分析を行うことにある。平成27年度は、8-9月と2-3月に各3週間、計1ヶ月半にわたって連携研究者ら4人と共に現地作業を行った。現在、全体の4/5ほどの個体の整理が終了している。病理学的に興味深い発見があり、成年女性1個体が結核に罹患していた可能性が考えられた。病変箇所の椎骨をX線撮影して、放射線診断学的な検討を加えた結果、脊椎カリエスと診断された。結核は、当時の生活環境を考える上で非常に示唆に富む感染性疾患であり、水田稲作の普及に伴う生活環境の変化との関係を検討する必要がある。また、6個体において抜歯が観察されており、当該地域では、新石器時代中期まで頻度は低いものの抜歯風習が保たれていることが分かった。特に保存状態の良好な頭蓋骨については、3Dスキャナを用いてレプリカを作成し、生前の容貌を解剖学および法医学的に復顔する準備を進めている。化学分析に関しては、前年度にサンプリングした人骨片と歯牙はコラーゲンの保存状態が悪く、分析に耐えられないことが判明した。したがって、今年度は、まず44個体と幅広く微量骨片を採取してコラーゲンの保存状態を選別し、分析可能な数個体から再サンプリングを試みた。一方、動物骨のコラーゲンの保存状態は良好であり、年代測定と食性分析を行うことができた。特に年代測定の結果は、本遺跡では初めての物理年代であり、考古学的に想定されていた年代と概ね矛盾しないことが分かった。比較集団の計測データの収集も順調に進んでおり、文献記載のものはほぼ利用できる状態になった。広富林遺跡集団との比較は、整理作業が続いているため詳細にはまだ行っていないが、華南新石器集団との類似点も浮かび上がっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
人骨が埋もれている粘土質の土壌が乾燥状態のままでは非常に硬く、水洗作業を強いられているため、1年目は整理作業の進行が遅れていた。しかし、2年目に入り、整理作業は軌道に乗り、当初の遅れは取り戻しつつある。人骨だけではなく歯牙中のコラーゲンの保存状態が不良であることは予想外であったが、微量骨片の採取によってコラーゲンの保存状態をスクリーニングし、分析可能な個体を選別することによって対応している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、8-9月の現地調査で人骨の整理作業を完了させ、3月の現地調査で基礎分析に区切りをつけ、データ解析の結果をまとめる。広富林遺跡出土の脊椎カリエスについて雑誌論文に投稿すると共に、人骨全体の報告書の作成準備に取りかかる。2月後半に、海外研究協力者2名を日本に招聘し、東京と下関で公開シンポジウムを開催する予定である。
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Causes of Carryover |
平成27年度に、一部の連携研究者は、日程調整が難しく現地滞在期間を短縮したため、その旅費分が余った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の連携研究者については、平成28年度も引き続き現地調査に参加予定であり、その旅費に充てる。
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