2015 Fiscal Year Research-status Report
気候変動と樹木種内の遺伝的多様性が森林の生態的プロセスに与える複合効果
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26450188
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
中村 誠宏 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (80545624)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小池 孝良 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (10270919)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 生物多様性 / 地球温暖化 / 空間スケール / 生態系機能 / 植食性昆虫群集 / 生物間相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
ダケカンバの遺伝的多様性が生態系機能や植食性昆虫群集構造にどのような影響を与えるのか?を解明するために、6つのダケカンバ個体群(遺伝子型)を使って3段階(1、3、6遺伝子型数)の遺伝的多様性を操作した圃場にて毎月(6月ー8月)以下の項目の調査を行った。樹木遺伝的多様性が生態系機能に与える影響の調査において、樹木の生産性として葉サイズ(幅、高さ、厚さ)、基部直径、樹高を測定した。どの月も葉サイズ、基部直径、樹高は相加効果しか検出されなかった。一方、光合成特性としてSPAD値(クロロフィル濃度)を測定した。7月において3遺伝子区で正の非相加効果(多様性効果)が見られたが、その他の月では相加効果のみが検出され、多様性の効果は見られなかった。樹木遺伝的多様性が植食性昆虫群集構造に与える影響の調査において、植食性昆虫の群集構造の評価として摂食機能群(咀嚼性、ゴール性、吸汁性、潜葉性)毎の密度を測定した。咀嚼性昆虫の密度は6月において3遺伝子区で負の非相加効果が見られたが、その他の月では相加効果しか検出されなかった。ゴール性昆虫の密度は8月において6遺伝子区で負の非相加効果が見られ、吸汁性昆虫の密度も6月において3遺伝子区で負の非相加効果が見られた。しかし、どちらのタイプもその他の月には相加効果しか見られず、また潜葉性昆虫の密度も相加効果しか検出されなかった。樹木遺伝的多様性が被食に与える影響の調査において、樹木が昆虫から受けるダメージとして葉の咀嚼性昆虫からの被食度を測定した。被食度は7月において6遺伝子区で負の非相加効果が見られたが、その他の月には相加効果しか検出されなかった。この研究から初期応答として樹木の遺伝的多様性は植物生産性よりも先に栄養段階間の相互作用に影響が及ぶことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究目的は、1)樹木の遺伝的多様性が生態系機能に与える影響、2)樹木の多様性が昆虫群集構造に与える影響、3)樹木の遺伝的多様性が被食に与える影響を解明することの3点であった。6つのダケカンバ個体群(遺伝子型)を使って3段階(1、3、6遺伝子型数)の遺伝的多様性を操作した実験圃場にて、生態系機能(樹木の生産性、光合成特性)、昆虫群集構造(各摂食機能群の密度)、被食に関する調査を行ったので、これら目的は概ね達成されたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の目的は樹木の遺伝的多様性が生態系プロセス(生態系機能、昆虫群集構造、被食)の安定性に与える影響を解明することである。当初は温暖化を撹乱と捉えて、実験圃場の半数のプロットに農電ケーブルを埋め、電気を流して土壌温暖化の処理をして、その処理に対する生態系プロセスの安定性を解明することを計画していた。しかし、昨年度に代表研究者の所属が同じ北海道大学内ではあるが中川研究林から名寄北管理部へと異動したことに伴い、実験圃場の管理上の理由で名寄北管理部へダケカンバ苗木を移植する必要が出てきた。この中川研究林と名寄北管理部の生育環境の違いは大きな環境の変化を伴うことから、撹乱と捉えることができる。そのため、この撹乱に対する生態系プロセスの安定性を解明することを研究の目的に変更する。土壌温暖化処理による操作実験は本科研の期間外になるが、カンバ苗が名寄北管理部の圃場に完全に活着した後から必ず開始したいと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、1)中川研究林の技術職員と技能補佐員の協力により調査のための研究補助のバイトを雇用する必要がなかった。また、2)地下部の生産量を評価するために、当初はミニ・ライゾトロンを使うために資材(筒型パイプなど)を購入する予定だったが、温暖化の操作実験後に掘り起こして、地下部の重量を測定する方法に変更したため、それら資材を購入する必要がなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
中川研究林から名寄北管理部へと苗木を移植する際に使う道具を購入する。名寄の圃場の整備の際の学生バイトの謝金として使用する。作業効率を上げるために、葉の光合成特性を評価する携帯用クロロフィル計測器SPADをもう一台購入する。土壌水分を評価するために、土壌水分センサーを購入する。昆虫からの被食と関係のある葉形質の分析のための試薬を購入する。
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Research Products
(12 results)