2014 Fiscal Year Research-status Report
シカの食害環境下にあるナラ枯れ被害林分の植生回復の可能性:京都三山における予測
Project/Area Number |
26450202
|
Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
長島 啓子 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (40582987)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 和博 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (70155117)
高柳 敦 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (70216795)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | シカの食害 / ナラ枯れ被害林分 / 植生回復 / 防鹿柵 / 衛星リモートセンシング |
Outline of Annual Research Achievements |
ナラ枯れ被害林分の分布状況の把握については,2012年7月27日撮影のWorldView-2画像を利用し,枯死木によるナラ枯れ被害林分の抽出を行ったところ,京都三山の落葉広葉樹林のほとんどが被害を受けていることが判明した。このため,ナラ枯れ被害林分の植生回復パターンの把握では,京都三山の落葉広葉樹林全体(5454ha)を対象に,60地点において植生調査を行った。また,シカの食害による森林の衰退程度もSDRという指標を用いて調査した。その結果,京都三山の落葉広葉樹林はいずれもシカの食害により1.6m以下の植被率が38%未満の食害有りの林分であることがわかった。また,これらのシカの食害環境下のコナラ林およびアベマキ林のナラ枯れ被害林分では,アラカシ林,コバノミツバツツジ林,ソヨゴ林,ネジキ・ヒサカキ林,ヒサカキ林,ヤブツバキ林の6つのパターンが見られることがわかった。これらの植生と地質,地形,傾斜,表層土粒径,堆積様式との間には明確な関係は見られなかった。このため,これらの6つのパターンを示す要因を更に検討する必要がある。 防鹿柵設置による植生回復効果の把握では,被害林分の林床に防鹿柵設置区と対照区を設けたところ,防鹿柵区は対象区より種数に差は見られないが,個体数が多い傾向が示された。実生の発生には防鹿柵以外に光環境や斜面位置が関係していることが示唆された。シカによる利用状況把握は,自動撮影装置を設置し,頻繁にシカが訪れ,下層植生や低木を食べる様子が把握できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ナラ枯れ被害林分の分布状況の把握では,枯死木抽出により研究対象地である京都三山の落葉広葉樹林のナラ枯れ被害状況を把握できた。しかし適切な画像が得られず衰弱木の抽出が十分でないため,引き続き5-6月の最新画像の入手が可能かを模索する。 植生回復パターンの把握では,ナラ枯れ被害を受けているコナラ林およびアベマキ林が現段階でアラカシ林,コバノミツバツツジ林,ソヨゴ林,ネジキ・ヒサカキ林,ヒサカキ林,ヤブツバキ林の6つの植生パターンを示していることを把握した。いずれも高木性樹種を欠いた少数の低木性樹種から構成されており,生物多様性の低下が危惧される結果と言える。これらの植生パターンは立地環境と関係が見られず,パターンを規定する要因が十分把握できなかった。植生パターンを規定する要因を過去の植生など多方面から検討する必要がある。本年はSDRという指標を利用することで,京都三山の落葉広葉樹林が,下層のみならず1.6m以下の低木もシカの食害により衰退している状況が把握できた。このため,シカの食害と植生パターンとの関係についても詳細に検討する必要がある。 防鹿柵設置による植生回復効果の把握では,本年は林床に高さの低い防鹿柵を設置し,実生の回復状況を把握した。リョウブやソヨゴなどの小高木性樹木は発生したが,コナラ,アベマキなどの高木性樹木はみられなかった。これは,被害林分の今後の更新の可能性を考える上で重要なデータであると言える。シカの利用状況は自動撮影装置により,食害の様子を観察できた。低木の枝を折り,高いところの葉を食べる様子も観察された。このような食害により低木層以下が衰退している林分が多いことから,来年度は計画通り,高さ2mの防鹿柵を設置することで,低木層の植物にどのような効果がみられるか検証する必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
ナラ枯れ被害林分の分布状況の把握では、枯死木分布図からナラ枯れ被害林分の状況を把握できている。今後は利用できる5-6月の衛星画像を引き続き探索し、衰弱木判別の可能性を模索する。 植生回復パターンの把握については、H26年度はプロットベースで解析を行い、6つの植生パターンを得ているが、立地環境との関係が明確でなかった。このため、今後は立地ベースで解析に取組み、植生回復パターンと立地環境やシカの食害との因果関係が見いだせるかを検討する。その上で要因別に植生回復パターンの整理を行い、植生回復ポテンシャルマップを作成する。 防鹿柵設置による植生回復効果の把握では、自動撮影装置により、防鹿柵設置前のシカによる利用状況を引き続き把握するとともに、シカの個体数密度が把握できる調査を実施する。また、高さ2mの防鹿柵の設置前の調査として、植生調査を実施し、現況を把握する。そして、平成27年の11月に防鹿柵を設置し、防鹿柵を設置しない対照区とともに、シカの利用状況および植生の変化を平成28年にかけてモニタリングする。これらの結果よりシカの食害環境下におけるナラ枯れ被害林分の植生回復のための適切な処置がどのようなものかを検討する。
|