2014 Fiscal Year Research-status Report
多能性幹細胞の分化異常機構を標的とする結節性硬化症の治療薬開発
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26460398
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
小林 敏之 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40260070)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小池 正人 順天堂大学, 医学部, 教授 (80347210)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 結節性硬化症 / 胚性幹細胞 / 細胞分化 / 腫瘍 |
Outline of Annual Research Achievements |
結節性硬化症遺伝子(Tsc2)欠損により生ずるES細胞の分化の異常を明らかにするため、遺伝子発現の網羅的な分析を進めた。野生型、Tsc2ヘテロ変異体、ホモ変異体ラットES細胞のcDNAアレイのクラスタリング解析から、ホモ変異体細胞において、上皮-間葉転換、細胞接着、WNTシグナル等に関する経路の異常が惹起されている可能性が推察された。また、ホモ変異体細胞に対してラパマイシン処理有り、無しの条件での網羅的分析を同様に行った。2種類のホモ変異体細胞の解析により、ラパマイシン処理有り同士、無し同士が類似した遺伝子発現パターンを示し、ラパマイシン処理によって発現が変化する遺伝子の中に、上記の野生型とホモ変異体で差の生じている遺伝子が複数認められた。さらに、野生型、Tsc2ホモ変異体ES細胞由来の奇形腫において発現に差が認められる遺伝子もcDNAアレイによって抽出した。これらの遺伝子発現異常により惹起される分化異常に関連する表現型について、奇形腫の免疫組織染色により検索を進めた。これまでTsc2ホモ変異体の奇形腫には、異常腺管様構造が発生することを見出していたが、その部分において、WNTシグナルや細胞接着・上皮-間葉転換に関わるβカテニンやEカドヘリンの細胞接着部における染色が減弱していることが判明した。Tsc2欠損による分化異常と腫瘍発生に関わる手がかりの一つが得られたと考えている。 一方、神経細胞の分化に対するTsc2欠損の影響を分析するため、培養レベルでのES細胞の神経分化誘導系の確立を試みた。ラットやマウスのES細胞を用いて報告されているいくつかの既存の方法では、野生型細胞においても高い分化効率が認められないことから、今後至適化を進める。予備的にTsc2ホモ変異体奇形腫における神経管様構造の極性異常の兆候を見出しており、奇形腫と培養細胞の併用が分析に有用であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
樹立したES細胞について、Tsc2欠損により培養レベルと奇形腫において生ずる遺伝子発現の異常については一定の知見を得ており、Tsc2ホモ変異体奇形腫に認められる異常組織において、遺伝子発現異常に関連する現象を見出すまでに至っていることから、概ね予定通りに進行していると自己評価している。Tsc2を始めとする、ES細胞への遺伝子発現導入のシステムの構築も既に完了しており、現在、導入細胞の樹立が進行中である。 一方、培養レベルでの神経分化誘導については、条件の至適化に時間を要している。ある程度の分化の様子は認められるものの、効率的に分析を進めるためにはさらなる条件検討が必要であり、この点から、やや遅れている点は否定できない。しかしながら、動物種や系統差による指摘条件の違いがあることは予想されたことであり、条件検討に時間を要すことは想定内の範囲と言える。奇形腫や胚様体等、神経分化の様子を調べる他の実験系の活用も可能であり、次年度以降の研究の進行全体が大きな影響を受けるものではないと考えている。 全体としては、遅れている部分はあるものの、おおむね順調に進行していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
ES細胞と奇形腫の遺伝子発現分析から見つかった、Tsc2欠損により生ずる遺伝子発現とそれに関連する経路の異常については、当該遺伝子の発現を人為的に変化させたES細胞を樹立し、奇形腫における表現型の変化を調べる。すなわち、野生型ES細胞における改変によりTsc2ホモ変異体奇形腫の表現型が再現されるか、逆に、Tsc2ホモ変異体ES細胞における改変により異常表現型の抑制が達成されるか調べ、増殖・分化異常発生機構の一端を明らかにする。当該遺伝子の発現異常については、Tsc2欠損により生ずるmTORC1活性亢進との関連を明らかにすると共に、その発現異常の基盤となるエピゲノム異常を解明する。 神経系分化については、培養下における分化誘導実験の条件の至適化を進めており、その達成によりホモ変異体における神経誘導時の表現型異常を明らかにする。至適化にさらに時間を要することが懸念される場合は、胚様体形成実験における神経細胞成分や、奇形腫における神経管様組織を活用して、表現型異常の調べを進めておく。胚様体や奇形腫における知見が先行した場合は、培養レベルでの分化誘導系における再現を確認する。上記の遺伝子発現異常を含め、神経分化の表現型に関与する要因を特定する。 これらの一連の解析により、Tsc2欠損によって惹起される分化異常を是正する遺伝子導入あるいは経路の遮断・活性化を特定し、結節性硬化症の新規治療法開発に資する。
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Research Products
(3 results)