2014 Fiscal Year Research-status Report
幼齢期ストレスによる精神発達障害のメカニズム解明と新規薬物治療戦略
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26460637
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Research Institution | Nagasaki International University |
Principal Investigator |
山口 拓 長崎国際大学, 薬学部, 准教授 (80325563)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 幼齢期ストレス / 精神発達障害 / 薬物治療 / 自閉症 / 社会的行動 / 幼児・児童虐待 / 精神疾患 / 行動薬理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、HPA axisの中心的なストレスホルモンの一つであるACTHの幼若期反復投与処置による「幼若期薬理学的ストレス負荷ラット」を作製し、幼若期に受けたストレスが成長後の行動学的応答性に及ぼす影響について検討した。 離乳した幼若期(3週齢)のWistar系雄性ラットに、ACTHの活性アナログである酢酸テトラコサクチド(30あるいは100ug/rat)を5日間反復皮下投与した(ACTH群)。対照群として生理食塩水を同様に投与した。 3週齢時におけるACTH 100ugの単回投与は、対照群と比較して血漿中コルチコステロン(CS)濃度を有意に増加させた。その後のACTHの反復投与5日目では投与初日と比較して血漿中CS濃度は約2倍まで上昇した。この幼若期ACTH反復投与ラットの成長後の行動変容について、①自発的交替行動試験(Y-maze試験):10週齢(成熟期)時のACTH群にのみ自発的交替行動率の有意な減少が認められた。② オープンフィールド試験:6週齢(発達期)および10週齢時ともACTH 100ug投与群では30分間の総移所運動量が有意に減少した。③高架式十字迷路(EPM)試験:10週齢時にのみACTH 100ug投与群におけるopen armの滞在時間が有意に減少した。④文脈的恐怖条件付け試験:10週齢時における恐怖条件付け24時間後のすくみ行動の発現率は、ACTH群と対照群との間に差はなかった。 ACTH群の成熟期では、Y-maze試験から短期記憶障害、EPM試験から不安様行動を発現している可能性が考えられた。いずれの場合も発達期では変化がなかったことから、幼若期のACTHによるHPA axisの擾乱は、成長後に認知・情動行動障害を発現すること、またその行動異常の発現には時期特異性があることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、幼若期ACTH投与モデルの作製ならびにこのモデル動物の行動学的評価を中心に実施してきた。モデル動物作製のための条件設定に時間を要したが、最終的に行動変化を伴うACTHの投与量を設定することができた。行動解析においては基本的な行動学的評価を実施した。この行動変化には、発達期では変化がなく、成熟期という成長後にのみ発現するという時期特異性があることも新たに確認されたため、この点についての考察と原因究明を行う必要がある。超音波啼鳴(USV)試験に用いる測定装置について、この装置を昨年度中期に入手したため、USV装置を用いた基礎検討および得られた結果の妥当性を検証する実験を並行して進めている状況である。また、今回得られた行動解析の結果から抑うつ症状と推察される知見も得られたので、実験計画の発達障害を念頭に置いた行動評価のみならず、発達障害の周辺症状としての「抑うつ症状」に関する行動評価の必要性が考えられた。本件についても詳細に検討を加えたい。
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Strategy for Future Research Activity |
1)行動学的評価:①Social interaction試験 [社会的行動および攻撃行動]、②隔離誘発性超音波啼鳴試験[不安症状を背景とする言語的コミュニケーョン機能]、③毛繕い、臭い嗅ぎ、立ち上がり行動を指標に行動異常としての反復行動[常同行動] 、抑うつ行動として④スクロース嗜好試験および⑤スプラッシュ試験 [無快感症状の評価]、⑥新奇環境摂食抑制試験[食欲・不安症状]を測定することによって、幼若期薬理学的ストレス負荷ラットの行動学的特性を詳細に検討する。 2)自閉症様行動の発現に関わる脳内分子の探索:自閉症発症の成因においては様々な候補遺伝子が提唱されていることから、幼若期ストレス負荷ラットの脳内においても自閉症関連遺伝子の転写産物であるタンパク質発現の変動についてその特異的抗体を用いてウェスタンイムノブロット法によって解析する。 3)関連分子の脳機能を推察するための脳内分布検索を念頭においた免疫組織化学的解析: 上記に実施予定の自閉症関連タンパク発現解析にて関与が認められた分子について、それらの分子の脳内における機能的役割を明らかにするために、特異的抗体を用いて免疫組織化学的に幼若期ストレス負荷ラットの脳内分布を網羅的に検討する。また、イムノブロット法にて得られたタンパク質発現の多寡が組織化学的にも検証されるか否かを非ストレス負荷ラットと比較検討する。 以上、得られた結果を取りまとめ、成果の発表を学会発表および学術論文によって報告する。
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Causes of Carryover |
平成26年度では、当該年度の物品費のほとんどを占める「超音波発生集録解析システム」の購入のため、纏まった金額の旅費に関わる出費ができなかったこと、実験に使用する実験動物(ラット)が基礎検討の結果、購入動物には動物繁殖会社から当大学までの輸送・搬送時に負荷されるストレスの影響が考えられ、再現性良く結果を得るためには自家繁殖の動物を使用する必要性が発生したことから、実験動物購入費が大幅に減少したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度申請分において発生した次年度使用額に関して、本年度は餌や試薬等の物品費および学会出席のための旅費の一部として使用する。 雌雄ラットを自家繁殖して幼若ラットを入手する。実験には雄のみを使用するので雄性幼若ラットがおよそ50匹を必要として、すなわち妊娠ラットをおよそ10匹要する。したがって、ラットの購入に必要な経費は3千円x(雄5匹+雌10匹)≒50千円と算定した。必要に応じて、成熟雌雄ラットは交配を繰り返す。モデル動物における関連分子探索のための抗体購入に250千円、タンパク検出関連試薬、ラットの飼育飼料などの消耗品として合計200千円を算定した。国内学会参加旅費は、100千円と算定した。謝金として英語論文投稿の英文校正料50千円を算定した。 以上のように、次年度使用額の150千円および本年度助成額(交付予定額)の500千円を合計した650千円を使用予定とする。
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Research Products
(11 results)