2015 Fiscal Year Research-status Report
膵癌幹細胞におけるCD133依存性シグナルの解明とシグナル反応性miRNAの解析
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26462069
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
松原 修一郎 鹿児島大学, 医用ミニブタ・先端医療開発研究センター, 准教授 (60199841)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高尾 尊身 鹿児島大学, 医用ミニブタ・先端医療開発研究センター, 特任教授 (80171411)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 膵癌幹細胞 / CD133 / マイクロRNA / mTOR / Hedgehog / EMT / Slug / シグナル伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
「研究の目的」本研究課題の目的は、膵癌幹細胞におけるCD133依存性シグナルを明らかにすることである。細胞表面タンパクCD133は多くの癌で癌幹細胞マーカーであることが報告されている。我々は膵癌培養細胞において、CD133の発現が、造腫瘍性、薬剤耐性、遊走能および浸潤能などの癌幹細胞様形質と相関していることを明らかにしている(Hayashi他 2012、Ding他 2012)。本研究では我々の樹立したCD133高発現細胞およびノックダウン細胞を用いてCD133依存性シグナルが癌幹細胞様形質とどのようにかかわっているかを明らかにする。 膵癌は現在もきわめて予後不良の癌(5年生存率10%以下)であり、早期診断法ならびに新たな治療法の開発が急務である。膵癌細胞の幹細胞性維持に働くメカにズムを明らかにすることによって、これを標的とした治療法を開発し、根治に導くことが期待できる。 「研究実施計画」実施計画としては、大きく分けて2つあり、(1) CD133の下流に存在するシグナル分子について、タンパク質のリン酸化、切断、局在性の変化、あるいは転写制御などを介したシグナル伝達について検討する。(2) CD133の発現とmiRNAの発現パターンとの関連を明らかにし、miRNAを介したCD133の細胞機能の制御について検討する。 「H27年度に実施した内容」H27年度は、(1)タンパクを介したメカニズムについては、膵癌幹細胞様性質維持におけるHedgehogおよびmTORシグナルの重要性を調べるため、膵癌細胞移植モデルに対する阻害剤の作用をin vivo で検討した。次に、(2) miRNAについては、膵癌細胞での発現レベルがCD133の発現と相関するmiR30ファミリーについて、その強制発現細胞を樹立し、CD133依存性形質との関連性を調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H27年度は、CD133の機能について、miR-30ファミリーの関与を解析するとともに、CD133陽性腫瘍移植モデルを用いてHedgehogおよびmTORシグナル阻害剤の作用をin vivoで検討した。 昨年度までの結果から、CD133ノックダウン膵癌細胞株では親株に比べてmiR-30ファミリーの発現が低いことが分かっている。レンチウイルスを用いてmiR-30a, -30b, -30cを膵癌細胞株に遺伝子導入し、強制発現株を作成した。導入細胞は形態、増殖能、スフェア形成能(自己複製の指標)などについてはコントロール細胞と差がなかったが、抗癌剤gemcitabineに対する耐性が高かった。また、miR-30導入細胞はコントロール細胞に比較して遊走能、浸潤能が高く、RT-PCRおよびWestern blotの結果、間葉系マーカー(fibronectin、vimentin、N-cadherin) の発現が亢進しており、CD133高発現膵癌細胞株と同じようにEMT(上皮間葉転換)様の性質を示しているものと判断された。これらの結果は、miR-30ファミリーがCD133依存性のシグナルを仲介している可能性を示しており、CD133⇒miR-30ファミリー⇒EMT(上皮間葉転換)様性質という制御の流れが認められた。一方で、miR-30の発現を増加させてもCD133発現レベルの変化は認められなかったので、miR-30によるCD133発現の制御はないものと考えられる。 マウスのin vivoモデルにおいて、HedgehogおよびmTOR阻害剤の二重投与は腫瘍の増殖抑制に有効であることが示された。 以上、26年度および27年度の研究をとおして幹細胞マーカーCD133依存性の形質と考えられるEMT(上皮間葉転換)様性質の誘導に転写因子Slug(26年度)およびmiRNAのmiR30が関与することが示された。また、膵癌幹細胞の幹細胞様性質の維持にHedgehogおよびmTORシグナルが重要であることを既に明らかにしており、次の段階でこれらとCD133の関連について検討することが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
H27年度までの研究の結果、(我々が樹立した)膵癌幹細胞のモデルCapan-1M9細胞では、幹細胞マーカーCD133発現の有無によってEMT(上皮間葉転換)関連の性質が変化し、間葉的形質の増強には転写因子SlugならびにmiRNA miR30ファミリーが関与していることが示された。また、膵癌幹細胞様性質の維持に重要であると考えられる2つのシグナル経路、KRAS-PI3K-AKT-mTOR経路とHedgehog経路の作用について検討をおこなってきたが、両者の二重阻害が膵癌幹細胞の制御に有効であることが明らかになった。 活性化KRASは、PI3K-Akt-mTOR経路だけでなく、Hedgehog経路も活性化することが膵癌細胞において報告されており(Ji, Z. et al. 2007)、RAF-MEK-MAPK経路の関与が言われている。Capan-1M9細胞においては、MEK阻害剤U0126がCD133およびSlugの発現を低下させる一方で、免疫沈降実験においてCD133とERK (MAPK)が共沈することを我々は見ている。さらに、この細胞ではEGFシグナルに依存した間葉系マーカー(N-カドヘリン)誘導の際に、CD133のノックダウンがマーカーの発現を低下させることが示唆されている。膵癌においては、KRASの突然変異が高率に検出され、癌化のキー遺伝子であることを考えると、KRAS下流のPI3K-Akt-mTOR経路あるいはRAF-MEK-MAPKからHedgehog経路へのシグナルとCD133の関係が重要であると判断されるので、この点についてこれまでに蓄積されたデータをもとに解析を進める。また、これと関連してHedgehogとmTORの阻害剤に対するCD133陽性細胞の反応が異なること(我々の実験結果)は、近年注目されているS6キナーゼ(mTORのリン酸化基質)を介した両経路のクロストークのみでは、説明することができず、異なったメカニズムで癌幹細胞様形質に寄与しているものと判断される。よって、これをもう一つの重点として検討を加わえる。
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Causes of Carryover |
論文投稿の掲載料と追加実験を要求された場合の実験費用を残していたが、投稿先からの返事が来るまでに通常予想される以上の非常に長い期間がかかったため、追加実験が年度末からになり、これらの費用を持ち越すことになってしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度末に投稿先の雑誌より、major revision の返答を受け取り、現在追加実験をしているところである。当初の予定通りを論文掲載料と追加実験の費用として使用する。求められた実験の内容は、上記「今後の研究の推進方策」に述べた2つの重点と密接に関連しており、両者を結び付けることで有益な研究ができると考えられる。
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Research Products
(7 results)