2015 Fiscal Year Research-status Report
前立腺肥大症に対するゲノム薬理学に基づく個別化治療と創薬開発に向けた基礎的研究
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26462448
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Research Institution | Fukushima Medical University |
Principal Investigator |
小島 祥敬 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (60305539)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柳田 知彦 福島県立医科大学, 医学部, 講師 (20363765)
櫛田 信博 福島県立医科大学, 医学部, 講師 (30381396)
羽賀 宣博 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (50586617)
相川 健 福島県立医科大学, 医学部, 准教授 (80295419)
石橋 啓 福島県立医科大学, 医学部, 准教授 (90347211)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 前立腺肥大症 / ゲノム薬理学 / オーダーメード医療 / 創薬 / モデル動物 / 網羅的遺伝子解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
ゲノム薬理学とは、薬剤効果に患者個人の遺伝的性質がどのように関与するかを研究する学問領域である。すなわち、薬物療法の至適個別化をし、既存の万人向けの医療ではなくて、患者の個人的体質に合わせた個別化医療(オーダーメード医療)の実現を目標とする。私たちはこれまで個別化医療の実現を目指して研究を行い、前立腺組織の受容体の発現量により薬剤効果が規定されることを明らかにしてきた(文献1-9)。しかし前立腺生検組織を用いた研究は、侵襲を伴うため、良性疾患である前立腺肥大症における患者への実用化は現段階では難しい。 今日のオーダーメード医療の中心は、一塩基遺伝子多型(SNP)であり、特に癌領域では臨床応用に至っているものもある。前立腺肥大症においては、これまで薬剤効果とSNPとの関係を検討した報告は散見されるが、α1受容体上に存在するSNPをすべて網羅したものではない。今後α1遮断薬を投与した際の薬物動態・薬剤効果・副作用の個人差に関与するSNPを同定するためのゲノムワイド解析が必要になると考え、本研究の着想に至った。私たちは、前立腺肥大症薬物治療における適正用量および薬剤効果を服薬前に予測する、より詳細なアルゴリズムを作成し、臨床的実用化に向けた基礎的研究を行いたいと考えている。 一方、前立腺肥大症に伴う下部尿路症状に対する薬剤は、症状を緩和する薬剤としてα1遮断薬および抗コリン剤、β3刺激薬など役者はそろいつつあるが、前立腺の機械的閉塞する薬剤は5α還元酵素阻害剤のみである。しかし5α還元酵素阻害剤はPSA上昇マスクや前述したハイリスク前立腺癌の問題があり、ホルモン非依存性の前立腺肥大症発症メカニズムの解明とそれに伴う新規治療薬の開発が必要と考え、本研究の着想に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前立腺肥大症の発症にFGF、IGF、TGF familyなどの種々の増殖因子やサイトカインが関与している。特にFGF1、FGF2、FGF9などの増殖因子は、上皮もしくは間質で前立腺の増殖分化に重要な役割を果たしている。TGFβは、前立腺の間質の増殖分化に関与しており、特に上皮―間質相互作用における役割について注目されている。また、上皮より分泌されたIL-1αやIL-8はそれぞれ間質においてFGF7、FGF2を誘導する。また、IL-2、IL-4、IL-17などのサイトカインは前立腺肥大症組織において発現量が増加しており、インターフェロン誘導性の炎症性ケモカインであるCXCL9、CXCL10、CXCL11が前立腺肥大症の移行領域でup-regulationされていることも報告されている。私達が以前確立したヒト前立腺肥大症に病理学的に類似した前立腺肥大症モデル動物においても、これらと重なる、増殖因子、サイトカイン、ケモカインの誘導が確認できた。これらの所見は前立腺肥大症の病態に、慢性炎症やT細胞浸潤が強く関与している可能性を示し、また将来の治療のターゲットになる可能性がある。 今日の分子生物学の発達により、前立腺肥大症の病態を遺伝子レベルで捉えようとする試みがなされている。特に、マイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子発現情報解析から、さまざまな関連遺伝子の同定がなされている。私たちも、上述した前立腺肥大症モデル動物を用いてマイクロアレイ解析とオントロジー解析を行い、免疫反応に関与する遺伝子の増加が著明であることや、アポトーシスやアンドロゲン関連遺伝子、TGF-βシグナル伝達系、細胞接着因子、コレステロール合成経路関連遺伝子の増減が認められることを証明した。これら網羅的遺伝子解析により、今後新しい創薬の可能性が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
<前立腺肥大症ゲノム機能解析による個別化医療の実現> 前立腺肥大症患者の全ゲノム解析を行い薬剤応答性・耐性責任遺伝子の同定:前立腺肥大症患者を対象として、α1遮断薬を投与した際の、薬物動態、薬剤効果、副作用の個人差に影響を与える遺伝子および遺伝子多型を全ゲノム解析により同定する。 <前立腺肥大症モデル動物と用いた網羅的遺伝子解析による新しい創薬開発> 前立腺肥大症組織における線維化メカニズムの解明:前立腺肥大症は、進行すると線維成分の割合が増加し、そのような症例は手術療法まで至ることが多い。しかしながら、その線維化の過程については不明な点が多い。一方、他臓器の線維性疾患において、筋線維芽細胞の関与が最近注目されている。そこで、ヒトBPH組織に類似した、間質成分優位な前立腺肥大症モデルラットを用いて、その前立腺組織中の筋線維芽細胞の経時的な変化を評価することで、前立腺の線維化に及ぼす影響の解明を試みる。 前立腺肥大症モデルにおける補体活性化経路の検討:これまでの私たちの検討から、本モデルにおいては、補体古典的経路の活性化が起きていることを証明してきた。前立腺肥大症モデル動物においては、その発症に自己免疫反応が関与していると仮定し、前立腺肥大症の発症メカニズムを免疫学的アプローチによって解明していきたい。
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Causes of Carryover |
来年度も継続のため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費として使用予定。
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[Journal Article] Elucidation of the pattern of the onset of male lower urinary tract symptoms using cluster analysis:Efficacy of tamsulosin in each symptom group.2015
Author(s)
Aikawa K, Kataoka M, Ogawa S, Akaihata H, Sato Y, Yabe M, Hata J, Koguchi T, Kojima Y, Shiragasawa C, Kobayashi T, Yamaguchi O.
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Journal Title
Urology
Volume: 86
Pages: 849-853
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Pelvic arterial occlusive disease affects the Rho-A/Rho-kinase pathway in bladder smooth muscle.2015
Author(s)
Akaihata H, Nomiya M, Hata J, Yabe M, Takahashi N, Haga N, Kushida N, Ishibashi K, Aikawa K, Yamaguchi O, Kojima Y.
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Journal Title
The Journal of Urology
Volume: 194
Pages: 706-713
DOI
Peer Reviewed / Open Access