2016 Fiscal Year Research-status Report
前庭小脳興奮性回路における一過性虚血に対する脆弱性の解明
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26462547
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
高安 幸弘 群馬大学, 医学部附属病院, 講師 (70375533)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 虚血 / 前庭小脳 / パッチクランプ |
Outline of Annual Research Achievements |
ラット小脳虫部のスライス切片を作成し、前庭小脳領域のプルキンエ細胞およびunipolar brush cellにパッチクランプを行い、低酸素低グルコース (OGD)細胞外液を還流させた。プルキンエ細胞を-70mVに膜電位固定し、自発性興奮性シナプス後電流(sEPSC)を記録し、unipolar brush cellは電流注入なしの膜電位固定で自発発火を記録した。Unipolar brush cellの同定は、記録電極内に蛍光色素を混入し、蛍光顕微鏡下にて形態的に選択した。さらに、自発発火の膜特性を利用し、電気生理学的に周囲の顆粒細胞と識別することができた。実際には、小脳スライス切片を用いた場合、パッチクランプにて電流固定中の顆粒細胞においては一般に自発発火は観察されないのに対し、Unipolar brush cellでは10-20Hzの自発発火が確認され、その発火特性からtype Iとtype IIに識別される。以上より、形態学的および生理機能的に顆粒細胞とunipolar brush cellが識別可能であった。続いて、Unipolar brush cellにおけるOGD実験では、プルキンエ細胞sEPSCにおける実験結果と同様に、unipolar brush cellの自発発火はOGD刺激により顕著な増加を示し、細胞外液を生理的な外液に変更すると、ほぼベースラインの状態に回復した。これら2つの実験結果より、OGD外液還流によるプルキンエ細胞sEPSCの増加が、顆粒細胞層のunipolar brush cellの発火増加に依存する可能性が示唆された。Unipolar brush cellは、前庭小脳に特異的に発現する、興奮性介在ニューロンであり、プルキンエ細胞のsEPSC増加が、前庭小脳に特異的である特徴と一致すると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
椎骨脳底動脈循環不全による眼振を含めた中枢性めまい症状の発生から自然経過での改善に関する病態生理を明らかにすることが本研究の主題である。前庭系中枢において、最も虚血に対して脆弱性を持つと予想される領域は、神経細胞、神経細胞連絡が非常に密に存在する小脳領域、特に前庭小脳領域である。本実験計画では、ラットの前庭小脳領域の神経細胞において、虚血刺激として低酸素低グルコース (OGD) 細胞外液の還流を行い、これにより生じる一過性の発火特性変化を明らかにし、次にこれが発生するメカニズムを解析する方針である。前年度の実験で、まずプルキンエ細胞における興奮性入力を示すsEPSC(自発性興奮性シナプス後電流)の特性変化として、実際に、虚血刺激により前庭小脳領域プルキンエ細胞のsEPSCが一過性に増大するという特徴的な変化が生じることが確認された。これは、プルキンエ細胞における興奮性がODG刺激時に増加することを示し、プルキンエ細胞の興奮性増加は、その軸索出力であるGABA作動性の抑制性出力の増加を意味し、従って、これは前庭神経核における抑制性の増加に寄与する重要なメカニズムとして解釈できる。今年度は、さらに、そのメカニズムとして、前庭小脳に特異的に発現する興奮性介在ニューロンであるUnipolar brush cellに着目し、その自発発火の特性変化を観察したところ、虚血性刺激で特異的に発火頻度が上昇することが確認された。これらの現象は、前庭小脳以外の領域ではほとんど観察されず、前庭系に比較的特異的な現象であった。以上より、今年度の実験計画目標である、前庭小脳特異的な虚血性変化であるプルキンエ細胞における一過性虚血時の興奮性入力の変化のメカニズムの1つとしてシナプス前細胞の発火特性変化を実験的にとらえることが出来たと思われ、目標は十分に達成できていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
無酸素無グルコース(OGD)細胞外液還流による一過性虚血刺激実験で前庭小脳プルキンエ細胞におけるsEPSCの増加が観察された。さらにシナプス前細胞の顆粒細胞層にある、興奮性介在ニューロンであるUnipolar brush cellにおいて、一過性虚血刺激により発火頻度の顕著な上昇が確認された。プルキンエ細胞における現象は前庭小脳領域に優位に観察されるものである。さらに小脳皮質顆粒細胞層におけるunipolar brush cellの存在は前庭小脳に特異的であり、プルキンエ細胞における実験結果と一致する。興奮性介在ニューロンであるunipolar brush cellは、顆粒細胞の興奮性の制御に重要な役割を演じていると推定されているため、2つの現象が関連すると考えるのは合理的である。前庭小脳領域は、他の小脳領域と異なる線維連絡を持ち、また発生学的、形態学的にも他の小脳領域と多少異なる性質を持つ。このことが、他の小脳領域と異なる虚血脆弱性を示す要因となると推定された。一般に、虚血性神経障害のメカニズムの一つとして、虚血時のグルタミン酸トランスポーターの機能不全による細胞外液中のグルタミン酸貯留による興奮毒性が、よく知られている。この場合、虚血時の興奮性増加のトリガーになるのは、興奮性シナプス受容体であるグルタミン酸受容体の活性化である。従って、今後の研究の推進の方策として、これまでの経過で明らかになった前庭小脳の一過性虚血時の興奮性変化が、グルタミン酸受容体の活性化に基づく現象であるかを評価する。まず、OGD刺激時におけるunipolar brush cellの発火頻度の上昇が、グルタミン酸受容体の活性化に関与するかを薬理学的に評価する。これらはパッチクランプ実験下でグルタミン酸受容体拮抗薬を投与し、OGD刺激による発火特性の変化に違いが生じるかを観察することで確認する。
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Research Products
(5 results)