2015 Fiscal Year Research-status Report
頸部リンパ節転移モデルを用いた口腔癌転移とウイントシグナルの解析
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26463002
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岩井 聡一 大阪大学, 歯学部附属病院, 講師 (10362675)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 口腔扁平上皮癌 / 浸潤能 / 高転移能株 / ウイントシグナル |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒト低分化型舌扁平上皮癌由来細胞株SAS を用いてin vivo selection を8回繰り返し、頸部リンパ節高転移株SAS-LM8を確立した。このSAS-LM8及びSAS-GFPについて、細胞形態、増殖能、遊走能などの生物学的特性に関して評価した。SAS-LM8は、SAS-GFPに比較して、細胞形態は伸張化し、遊走能及び浸潤能の顕著な亢進を認めた。アクチン細胞骨格の形態観察を行った。また、アクチン細胞骨格の再構成に関する低分子量Gタンパク質であるRho family分子(Cdc42, Rac1, RhoA)の活性をウエスタンブロテイングにて解析し、それらの活性化を認めた。両細胞株(SAS-LM8及びSAS-GFP)の転移能・運動能の差に関するWntシグナルの関与を検討した。両細胞株について、蛍光免疫染色と共焦点レーザー顕微鏡によりβ-カテニン,Eカドへリンの細胞内局在の変化を調べた結果、局在変化は認めなかった。β-カテニン標的遺伝子の発現にも差は認めなかった。しかしながら、Wnt関連遺伝子の発現変化を解析した結果、その発現に差が見られた。すなわち、β-カテニン非依存性経路を活性化するWntの1つであるWnt5bの発現の亢進を認めた。さらに、Wnt5bの siRNAによるノックダウンにより、SAS-GFP,SAS-LM8ともに遊走能が低下し、細胞周囲の仮足様突起の減退を認めた。また、Wnt5bを作用させると、SAS-GFP, SAS-LM8ともに運動能の亢進と細胞周囲の仮足様突起およびCdc42,RhoAの亢進を認めた。以上よりWnt5bはWntシグナル伝達経路のうち、β-カテニン非依存性経路を介して、Cdc42とRhoAの活性化、細胞骨格の再構成、に影響を及ぼし、その結果口腔扁平上皮癌細胞の細胞運動能を亢進することが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで、口腔癌細胞についての特性に及ぼすウイントシグナル関連因子と伝達経路に関して解析を進めてきた。それらの成果を元に、さらに研究を進めていくために、高転移能株を確立した。 研究計画書に記載した“研究期間内に何をどこまで明らかにしようとするのか”という目標設定に対して検討した。(1) 頸部リンパ節転移モデルを作成し、口腔扁平上皮癌細胞における転移能とβ-カテニン経路およびβ-カテニン非依存性経路の活性化との関連を明らかにする。 (2) 口腔扁平上皮癌の転移能・浸潤能に関与する、Wntシグナル経路の因子を同定する。(3) 口腔扁平上皮癌の転移能に及ぼす、β-カテニン経路およびβ-カテニン非依存性経路のクロストーク、TGF-βシグナルなどの他のシグナル伝達経路とのクロストークを明らかにする。 (1)及び(2)に関しては、当初の目的をほぼ達成した。(1),(2)の研究をさらに詳細に進めると共に、(3)の研究を進めつつある。このように、3年間の研究期間の2年間の成果としては、十分に達成できていると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) マイクロアレイによる発現解析:両細胞株からRNAを抽出し、β-カテニン経路およびβ-カテニン非依存性経路に関連する因子の発現強度を網羅的に比較する。一定量の変化(閾値)が見られた遺伝子において、定量RT-PCRにて検定する。 (2) SAS以外の口腔扁平上皮癌細胞株HSC-3においても、In vitro selection のシステムにより、高転移株を確立する。高転移株HSC-LMX及び親株HSC-GFPをSAS-LM8及びSAS-GFPと同様に比較実験を行うことにより、より普遍的に浸潤能転移能に関するメカニズムを明らかにする。 (3) 転移に関与するWntシグナル関連因子をSAS-GFP/SAS-LMXに遺伝子導入して強制発現させ、浸潤能及び転移能の変化及びin vivoにおける転移率の変化の有無を検討する。Wntシグナル関連因子が浸潤能及び転移能を正に制御する因子である場合;SAS-GFPに導入した細胞は細胞浸潤能及び細胞遊走能が亢進し、マウス舌に接種すると頸部リンパ節転移の転移率が向上するのかを解析する。Wntシグナル関連因子が浸潤能及び転移能を負に制御する因子である場合;SAS-LMXに導入した細胞は細胞浸潤能及び細胞遊走能が低下し、マウス舌に接種すると頸部リンパ節転移の転移率が低下するのかを解析する。
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