2015 Fiscal Year Research-status Report
アロンゾ型モデルによる人口減少下の財供給・NIMBY立地と農家兼業化の分析
Project/Area Number |
26504001
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
安藤 朝夫 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (80159524)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福山 敬 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30273882)
宅間 文夫 明海大学, 不動産学部, 准教授 (80337493)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 都市経済モデル / 統計的比較静学 / コホートモデル / 小地域統計 / 人口減少 / 供給拠点配置 / 兼業農家 |
Outline of Annual Research Achievements |
アロンゾ型都市モデルのブームはl980年代までに過ぎ去った印象があるが,現実の都市問題に関して十分な応用例が蓄積されてきたとは言い難い。本課題は,日本の都市の現状を反映する3つのサブテーマを取り上げ,アロンゾ型モデルにより有用な政策提言を得ることを目的とするものである。 1. 人口減少下の財供給:従来の単一財の供給モデルを,購入頻度が異なる2種類の財に拡張した定式化を行い,供給点の立地と社会的厚生の関係を数値解析により分析する。モデルの設定としては,人口分布が均等である場合と集住を認める場合,財需要が弾力的な場合と非弾力的な場合,固定費や交通費の軽減に伴う集積効果の有無等によるバリエーションが考えられる。 2. NIMBY施設の立地分析:線分上に隣接する2自治体によるゴミ処理施設立地について検討する。従来は都市間通勤を許容する一方で,ゴミに関しては域内処理を義務付ける場合を分析したが,現実には一部事務組合等による共同処理が普及している。共同設置問題を定式化することにより,非立地自治体から立地自治体への適切な所得移転が伴うならば,共同設置の方が社会厚生面で望ましいことが示せる。 3. 兼業農家モデル:伝統的な都市モデルでは,都市外縁の農村は都市と無関係に存在するが,現実には都市周辺の農家が都市住民と同じ効用水準を達成するためには,部分的に都心で従業して農業収入を補填する必要があることが兼業の本質であると考えられる。兼業を許容するモデルを定式化し,各種パラメータの都市形状(都市住民・兼業・専業農家の境界等)に与える影響に関して比較静学を実施する。 この種のモデルでは,定性的な性質を解析的に得ることは難しく,数値解析を頼らざるを得ない。そこでランダムに発生させたパラメータに基づいて,比較静学分析を統計的仮説の形で確率的に記述する方法論(統計的比較静学分析)についても検討する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の第一義的目的である,アロンゾ型都市モデルの3種類の都市問題に関する応用については,人口減少下の財供給・NIMBY施設の立地分析・兼業農家モデルの何れに関しても,雛形となるモデルの定式化を完了し,解の基本的性質に関する数値分析を終えている。ただし第1のモデルに関しては,初期人口の下での2種類の財の供給拠点の配置に関する分析のみが実施済であった。本年度は人口減少が生じた場合の供給可能性に関して,28年度修了予定の学生に対する修士論文課題を通じて研究指導を実施している。また第3の課題に関しては,都市モデルの定式化を確認し,重要なconjectureである「郊外に向かって兼業率が減少する」ことの証明を含めて,分担者(宅間)と共に理論研究を進めている。 第1の課題は人口減少を正面から扱うにものであるが,現象としての人口減少が都市内のコミュニティに与える影響は一様ではない。そこで1995~2010年の4次の国勢調査・小地域統計を用いて,東京都に関する小地域コホートモデルを構築し,大規模住宅団地が住民の社会移動に影響することを実証した。その結果を論文として公表すると共に,都市における交通施設整備とその費用負担の問題を例に,問題の同次性がパラメータ発生区間の設定に重要であることを指摘し,新たな数値解析に基づく統計的比較静学分析を行った結果に関して投稿準備中である。 本研究では,以上のように応用都市経済モデルに関する理論面に留まらず,理論分析を支える統計的方法論,都市に関する実証分析を含む多角的な研究を展開している点で,概ね順調であると判断される。
|
Strategy for Future Research Activity |
本課題の3つのサブテーマについて以下のように研究を進める。28年度も主に1と3について推進を図るが,分析に際しては27年度までに検討した統計的比較静学分析の手法が活用できる。 1. 人口減少下の財供給:単一財供給の問題を拡張し,人口減少に伴う拠点統廃合による厚生変化と財供給の維持可能性を,2財供給の場合について論じる。人口減少後にも人口の均等分布を維持する場合と,初期の宅地サイズを維持した上で空地の存在を認める場合が考えられるが,短期的には後者(コミュニティの選択と集中)の方が現実的であるから,これを前提として分析する。医療のような非弾力的サービスの場合,たとえば内科・外科を1ヶ所に集中させると固定費・交通費の削減が可能であり,社会的厚生が上昇するため供給体制の維持が比較的容易になることが解る。 2. NIMBY施設の立地分析:隣接する2自治体がゴミ処理施設を単独設置する場台は,施設の固定費用を含む運営費を各自治体の住民からの一括税で賄うが,共同設置する場合の固定費用と施設への近接度が処理量に依存しない場合には,共同設置が有利である可能性が高い。従って施設の処理量増加の影響を,単独設置の場合と整合的な形で定式化する必要があり,結果的に単独設置の分析の改訂が必要になる可能性がある。その意味で,嫌悪度や固定費に関する設定が重要な検討事項となる。 3. 兼業農家モデル:農家の兼業を認める単一中心郡市について,均衡解の定性的性質を検討する。兼業を認める場合,パラメータ空間における均衡解の存在領域が兼業がない場合より拡大すると予想されるが,これは兼業化が近郊農業の存立可能性を高めることを示唆する。技術的には,農家の生産用・居住用土地の空間配置の曖昧さの処理が問題となるが,この枠組みは農産物自由化等の農業政策が都市圏の空間・就業構造に及ぼす影響等,政策的に興味深い分析を可能にする。
|
Causes of Carryover |
27年度は本研究の3つの課題のうち,人口減少下の財供給モデル,兼業農家の立地パターンの2つに加えて,アロンゾ型モデルの数値解析を進める上で有用な基礎理論となる統計的比較静学の3分野で並行して研究を進めた。これらは各々修士論文等の形で一通りの成果を得ているが,複数財供給モデルについては新たな修士論文の課題として学生を指導しており,兼業農家問題については分担者(宅間)と共同で研究を進めている。統計的比較静学については,新たな計算結果に基づいて論文を改訂中であるが,その英文校閲や関連図書の選定が年度を越えることになった。従って,本課題に含まれる個別の研究内容を学会等で発表し,また論文に取りまとめる際に必要となる旅費・投稿料相当額について若干の繰越しが発生した。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述のように,本研究に含まれる各課題について,学会等で発表するための参加費及び旅費,また論文投稿のための英文校閲費及び投稿料等として,28年度中に適切に使用する計画である。
|