2014 Fiscal Year Research-status Report
中国における上海モデルの住宅市場と習近平政権の住宅政策に関する研究
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26504007
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
中岡 深雪 北九州市立大学, 基盤教育センターひびきの分室, 准教授 (50514808)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 住宅政策 / 中国 / 経済事情 / 上海 / 習近平政権 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は住宅金融、福祉住宅について先行研究、関係する文献の収集を行い、中国における住宅金融、福祉住宅に関する論点を築く作業を行った。中国では1998年以降、都市部で住宅市場が形成されてきた。この年を契機として、住宅は福利厚生の一部として職場から供与されるものではなく、個人が取得、もしくは契約するものであることが徹底されるようになった。市場メカニズムのもと住宅の自由な取引が行われるようになり、また経済発展の過程において、住宅価格が継続的に上昇する現象とともに、経済格差が定着するようになった。住宅については、住宅金融制度が住宅需要を支えるツールとして機能していないこと、また低所得者向けの住宅が供給されていないことが、住宅による経済格差を裏打ちする要因として考えられる。 そこで先行事例として日本とアメリカの住宅金融制度について文献収集を行い、知見を深めた。現段階の中国の住宅金融については住宅需要に対して住宅金融制度が充分に機能しているとは言えない。公的住宅金融制度である住宅公積金制度が存在し、銀行による住宅ローンも住宅需要を支えるツールとして存在するが、住宅ローンはしばしば住宅価格高騰抑制のため利用に制限が設けられることが多く、ローン本来の役割を必ずしも果たせていると言えない。現状では住宅ローンに関わらず、中国の銀行業務は国有銀行のシェアが圧倒的で、競争力においても民営銀行は国有銀行に比べて劣位にある。それに関して中国国内の議論を整理、理解するため、訪中時に資料収集を行った。論点ごとに整理している過程であるが、日本とアメリカの先行事例も参考にした結果、公的制度である住宅公積金の役割を強化する必要があることがわかった。 H.27年3月訪中時に現地専門家との意見交換、現地調査を行った。上記論点に関することほか、新たな論点について気付きを得た(今後の研究の推進方策に記す)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H.26年度に設定した研究実施計画は3点ある。1、先行研究のサーベイ(日本語)については住宅金融、福祉住宅の各テーマでCiniiの活用により文献を多くを入手することができた。ただ論旨が同様のものが多く、中国の制度研究に援用するには不十分である。中国語文献については訪中時に収集し、論点ごとに整理中である。2、現地調査は3月に上海にて行った。現地専門家との意見交換により、当該テーマに対して新たな視角より分析を行う必要性を感じた。文献収集は上海の各市区の年鑑を入手することができた。特に松江区については松江都市計画展示館にて歴年の松江年鑑を利用し、不動産開発等の経過を詳細に知ることができた。3、政策の収集、アップデートも順調に行った。当年度は政策面での大きな変化は見られなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
H.27年度は文献サーベイのまとめ、研究開始時に設定した課題の確認と調整、現地調査と中間報告の準備と作成を予定している。当初設定した論点ごとに研究を遂行する。 H.27年3月に現地調査で訪中した際、専門家と意見交換を行い、現地での調査を経た結果、以下の新たな論点を検討する必要があることがわかった。それは土地も含めた住宅の所有権について、何らかの方法で明確に管理するシステムを構築する必要があるということである。中国では一部の都市で住宅を購入する際に納付が必要な不動産税が取り入れられているが、日本の固定資産税に相当するものは存在しない。中国政府はこれまで住宅価格の高騰を抑制する対策を打ち出す際、個人の住宅所有軒数に応じて住宅ローン借り入れに制限を設けることを行ってきた。不動産取得の際に税金を納入する必要はあっても、所有に際して納税義務がないため、所有者としての名義貸しが横行している。また福祉住宅の供給に際しても同様の問題が発生している。つまり公正な制度設計がなされていないのである。現状に対して、政府としても新たな財源確保の意味で日本の固定資産税に相当する税金の導入が必要となっているのである。この論点は住宅金融、福祉住宅の充実をはかるため、習近平政権における重要な課題であると考える。これまで設定した論点と同様、日本やアメリカの先行事例を参照することで、中国において適用可能かどうか検討していきたい。
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Causes of Carryover |
物品費についてはノートパソコンが予定していた金額より低くで購入できた。また中国で注文した書籍の入手が困難で時間を要し、年度内に調達することができなかったことなどが挙げられる。研究補助の人件費、謝金等についてはできる範囲で自身で行ったため、当該年度には発生しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度入手できなかった書籍の購入、ならびに研究補助の謝金として使用する予定である。
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