2015 Fiscal Year Research-status Report
金属元素同位体トレーサーを用いた化石燃料燃焼由来重金属の環境負荷量の定量的把握
Project/Area Number |
26550020
|
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
谷水 雅治 関西学院大学, 理工学部, 教授 (20373459)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 嘉夫 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10304396)
坂口 綾 筑波大学, 数理物質科学研究科(系), 准教授 (00526254)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 同位体 / 物質循環 / 環境動態 / 重金属 / 質量分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
ICP質量分析法による元素の高精度同位体分析を利用して、地球表層での重元素の循環を定量的に把握する試みが近年盛んに行われている。本研究では石油や石炭の燃焼に伴い大気に放出されている重元素のひとつであるニッケルに注目しており、本年度は岩石試料中のニッケルをカラム交換分離法により単離する手法を確立し、高精度Ni同位体測定を行った。昨年の段階では、イオン半径が類似しているマグネシウムとの相互分離のためにイオン交換分離に使う溶離液の種類とpHを最適化したが、これをケイ酸塩試料に適用するために、主要構成元素からのニッケル単離法の最適化を行った。 その結果、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、およびキレート樹脂を用いて、岩石試料の主要構成元素である、Na・Fe・Ti・Al、Cu・Zn、Mg・Ca・K、をそれぞれの樹脂を用いたカラムにより除去した。結果として得られたNiの回収率は約95%であり、高分離能かつ高回収率のNi単離手法が確立できた。玄武岩の標準岩石試料について、化学分離により得られたニッケルの高精度同位体分析を行い、Ni同位体標準試料に対して、質量に依存した同位体分別を確認した。このことは、得られたNi画分中に残存する共存元素に起因した多原子分子イオンによるNi同位体への干渉が無視できるほど小さいことを意味している。 本研究で確立した手法は、従来行われてきたジメチルグリオキシムとニッケルとの間の特異的な錯形成反応による沈殿生成除去による単離手法に代替できる可能性がある。従来法はニッケルの回収率が低く約80%であることや、チタンの除去率が悪いこと、またニッケル有機物沈殿の分解によるニッケルの再溶液化に数日を要するなどの問題を有しており、これらを克服することができる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者の異動にともない、新しい所属先で元素分析に利用する質量分析装置の導入が年度後半になったため、そのあいだ分離結果の確認が十分に行うことができなかったため。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究で新しく確立した化学分離法は、従来のNiグリオキシム沈殿による試料中のNi単離時の回収率の低さを回避できるため、より正確なNi同位体比が得られると期待される。今後はさまざまな種類の岩石試料についてNi同位体分析を進め、従来の報告値と比較し、さらに未分析の標準岩石試料のNi同位体分析を進める。とくに、従来法では分離がよくなかったケイ酸塩試料の主成分であるTiによるTiOのNi同位体への干渉が抑制されるため、正確な値が得られると期待される。また、環境中に放出される人為起源Niの主要排出起源は石油および石炭の燃焼であるため、これらの化石燃料試料からNiを単離し、同位体分析を行う。さらに、地球表層でのNi物質収支で重要な河川-海洋でのNi循環について、その物質収支を過去数千万年にわたり記憶しているマンガンクラストの分析を視野に入れ、対象試料の主成分であるMnの分離能を上げるために、キレート樹脂分離に使用する溶離液の最適化を行う。
|
Causes of Carryover |
研究代表者の異動に伴い、元素濃度定量に利用する質量分析装置の設置が年度後半になったため、ニッケルの化学単離の手法最適化の進展が当初の予定通り進まなかったため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
化学分離手法のさらなる最適化を行う際に必要な、消耗品器具や試薬、分析装置の運転に使うアルゴンガスなどの購入に充てる。
|
Research Products
(20 results)