2014 Fiscal Year Research-status Report
生体幹細胞ニッチを保持した人工ECMによる自己幹細胞からの拍動心筋細胞分化誘導
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26560251
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Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
山岡 哲二 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 部長 (50243126)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平田 みつひ 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 流動研究員 (80568452)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 幹細胞ニッチ / 脱細胞組織 / 分化誘導 / 心筋細胞 / 肝細胞 / 神経細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
心筋梗塞に対する細胞移植療法では、リスクの低い自己由来幹細胞が望ましく、自己骨格筋芽細胞や自己骨髄由来間葉系幹細胞が選択されてきたが、安定して高い効果が得られているわけではない。さらに高い治癒効果を得るためには、拍動する機能性心筋細胞が期待されているが、鑑定供給が可能な細胞ソースの確保が重要である。従来から心筋細胞誘導に関する多くの報告があるが、GATA4など心筋マーカーは陽性になっても、多くの場合自己拍動はしない。一方、培養基材の力学特性が幹細胞分化に影響することが注目されている。Discherらは、ポリアクリルアミドハイドロゲルの弾性率が、間葉系幹細胞の神経・骨格筋・骨への分化誘導に影響することを報告したが、心筋分化は達成されていない。我々は、弾性率だけでなくECMの種類も分化効率に影響することを見いだしており、本研究では、生体内の心筋細胞ニッチを可能な限り正確に再現するために、心筋組織そのものを心筋分化ニッチとして利用した。 ブタ等の心筋組織・肝臓組織・脳組織から細胞成分を除去してECM成分のみを残した脱細胞心筋・肝・脳組織を分化人工ニッチとして使用し、心筋細胞・肝細胞・神経細胞への分化誘導を処理を施した。組織によって細胞接着性が異なったために今回は、Ⅰ型コラーゲンおよび細胞接着性合成ペプチドで表面を修飾した(特願2012-237258)。今年度は、脱細胞化組織がiPS細胞の心筋および肝分化に与える影響について主に評価した。マウスiPS細胞の心筋分化誘導後、心筋組織特異的遺伝子発現を解析した。拍動関連タンパク遺伝子については心筋組織で他組織上より高い発現量を示したが、Caイメージング法を用いた拍動細胞誘導評価では、いずれの組織上においても拍動細胞誘導効率の大きな改善は見られなかった。組織表面の修飾の影響など、詳細に検討する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
脱細胞化組織がiPS細胞の心筋および肝分化に与える影響について評価した。残存DNA定量およびHE染色により細胞除去を確認し、マッソントリクローム染色および鍍銀染色によりECM成分を維持している事を確認し、さらに圧縮弾性率評価により脱細胞化処理前と同様の力学特性を維持していることを確認した。 次に脱細胞化組織から25umの薄切切片を作製し培養基材として以降の実験に使用した。 この時、予測されたとおり細胞接着性が十分ではなく、組織表面の修飾処理を施した。組織ECM組成を変化させることにつながると懸念されたが現状では必要な処理である。マウスiPS細胞の心筋分化誘導では、拍動関連タンパク遺伝子が、心筋組織で肝組織上より高い発現量を示した。これまで、拍動関連遺伝子の発現向上は効率よい拍動につながることが確認されているので望ましい現象である。興味あることに、本系において、ある心筋特異的転写因子の発現がいずれの脱細胞化組織上でも抑制されている事が示唆され、詳細な検討を進めることとした。また、マウスiPS細胞の肝細胞誘導実験の結果では、脱細胞肝組織で非常に高い発現量を示し、さらに有意に高いアルブミン分泌能を発揮した。このように、心筋分化誘導にのみならず、肝細胞誘導においても脱細胞組織の幹細胞分化ニッチとしての有用性が示されたことは、今後の幹細胞研究、iPS研究の基盤となるものと期待され、おおむね順調に伸展していると自己評価した。 一方で、細胞接着性が十分ではないことが一つの課題であり、生体内環境を再現するための細胞接着向上手法を導入する計画である。また、一般的な培養皿での培養と比較して、上述したある特異的転写因子の抑制が認められたことは予想外の発見であった。詳細な検討を進め、新たな分化誘導ニッチの構築に役立てたいと期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度と同様、拍動コロニーの出現率および拍動維持期間は、目視による誤差を避けるために、カルシウムインジケーターを用いて、心筋細胞の細胞の拍動に伴った蛍光強度変動パターンにより解析する。本手法は、全体的なコロニー出現数の定量のみならず、コロニー中で実際に拍動に供している細胞の特定も可能であるために、こちらを主として進める。一方で、エレクトロカルディオグラムを用いた拍動コロニー物性の確認システムの導入を計画している。これは、拍動パターンの胎児心筋細胞等との同一性を証明する目的である。拍動を開始した心筋細胞が、培養系で拍動を維持できる期間を合わせて検討する。胎児動物から採取した拍動心筋であっても一般的培養皿上では数日で拍動が停止すること、また、ゲル培養など最低条件下ではその期間が延長される現象はよく知られている。拍動細胞への分化挙動と同様に、あるいはそれ以上に、拍動維持機能は更に重要な基材特性と考えられるため、上述の基材上での拍動継続期間を比較検討する。 初年度において、心筋細胞に限らず、肝細胞に関しても同様のシステムの有用性が示唆された。自己骨髄由来間葉系幹細胞からの機能細胞の作成につながることが期待される。歴史的に間葉系幹細胞からの心筋細胞作出の困難さが想定されることから、移植リスクはあるものの拍動心筋細胞への分化効率が高いiPSでは比較的検討が容易であることから生体由来ニッチを用いた分化誘導システムを完成する計画である。本研究成果は、幹細胞分化誘導の基礎的研究として学術的意味のみならず、自己幹細胞指針に従った、我が国における死亡原因第2位の心疾患の中心である心筋梗塞・心筋炎治療システムへの重要な基盤技術となると考えている。
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Causes of Carryover |
初年度、脱細胞組織上への細胞接着性が思いのほか低く、十分な細胞接着性を得る戦略に時間を要したたために、分化誘導の実験回数を増やすことが出来なかった。最終的には、細胞接着性に優れる脱細胞組織の調整が可能となったことから、次年度に、これらを用いた分化誘導実験例数を重ねる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度開発できた細胞接着性脱細胞心筋、肝臓、脳組織上での、心筋細胞、肝細胞、神経細胞分化誘導実験の例数を増やすために、369380円を充当し、次年度予算と合わせて研究を遂行する。同時に拍動心筋細胞が、拍動を維持する期間を合わせて検討する。初年度において、肝細胞に関しても同様のシステムの有用性が示唆されたことから、合わせて研究を実施する。
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Research Products
(13 results)