2014 Fiscal Year Research-status Report
生体電気インピーダンスの高時間分解能測定による投球動作の判別
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26560352
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
中村 隆夫 岡山大学, 保健学研究科, 准教授 (00249856)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 生体電気インピーダンス / 高時間分解能 / Cole-Cole円弧 / 投球動作 / 判別分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに生体電気インピーダンスの周波数特性を高時間分解能で測定できるシステムを開発してきた。インピーダンス周波数特性はCole-Cole円弧則と呼ばれ、4つのパラメータ(Z0,Z∞,fm,β)で特徴付けられる。このシステムを用いて、橈骨手根屈筋の手関節側の電気インピーダンスパラメータから、以下の4つの投球動作【・通常の投球(前腕部が自然に回内)、・前腕部が強く回内する投球、・前腕部を回外する投球、・肘関節を強く伸展させる投球】を判別的中率96.7%で判別が可能となった。しかしながら、既存のAC100 V駆動の関数発生器およびA/D変換器がそれを制御するデスクトップパソコンが必要なため、装置が大がかりで可搬性に乏しく、屋外での適応は難しかった。そこで本年度は、まずAC電源が不要な測定システムの構築を行った。 従来の関数発生器に替えて演算増幅器により5つの周波数を発生させた。これらはそれぞれ3.87k、10.1k、19.8k、39.1k、103 kHzである。これらを加算して、電圧-電流変換器で定電流に変換する。これらのピーク値それぞれ53.5μ、135μ、160μ、178μ、178μAであり、全体の実効値は234 μAとなった。この電流を2つの電流電極を用いて生体に通電し、電位電極により、測定部位の電位差を検出し、差動増幅する。この信号を各周波数に対応したアナログスイッチとローパスフィルタ(カットオフ周波数25 Hz)により同期整流する。本装置の出力は5周波数におけるそれぞれの抵抗RおよびリアクタンスXである。本装置はUSBバッテリーで駆動するようにした。 本システムの測定範囲は0-80 Ωであり、抵抗RとリアクタンスXの誤差はそれぞれ±1%、±2%以下であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「おおむね順調に進展している」とする理由は以下の通りである。 1.AC100 V駆動の関数発生器が不要な測定装置を作製できた。さらに、これまでは消費電力が大きい乗算器を用いていたが、これに替わるアナログスイッチとローパスフィルタを採用したことにより、消費電力も小さくすることができた。また電源にモバイルバッテリーを採用した。 2.5周波数における抵抗RとリアクタンスXの測定精度はそれぞれ±1%、±2%以下であり、インピーダンスパラメータを算出するには十分な精度である。また従来用いてきた最適化数値計算によりパラメータを算出できる。さらに、各周波数のRとXを実時間で測定できることにより、デスクトップパソコンが必要な高速のA/D変換器が不要となり、ノートパソコンで制御できるUSB型のA/D変換でも適応可能となった。例えば200 Hzで円弧パラメータを取得する場合は、これまでのシステムではサンプリング周波数とデータ取得レートは2 MHzと800 kS/sが必要であったが、本システムは200 Hzと2 kS/sで十分である。 3.以上より、本年度開発した装置はモバイルバッテリーとノートパソコンおよびそれで制御できるA/D変換器で動作可能である。よって装置が小型・省電力で可搬性が向上して屋外での測定でも簡便となった。 4.国際生体医工学会大会WC2015(2015/06/07-12、カナダトロント)における特別セッションPresident’s Call for Innovative Papers & Abstractsへ本研究成果を投稿したところ、採録された。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、肘関節などに故障を起こしやすい代表的な投球動作の判別を行ってきたが、本年度作製し、可搬性が向上した測定システムを用いて、直球、カーブ、シュートなどの球種の判別について研究を進める。 1.補正方法の検討 本年度開発した装置の誤差に対する補正方法の検討を行い、より信頼性の高いデータが得られるように検討を行う。インピーダンスパラメータの算出においても数値計算で用いているKH法のパラメータの最適化を行う。 2.球種判別のための最適な電極装着位置の確認 これまでの研究では橈骨手根屈筋の手関節側が電位電極の最適位置としている。これは、手関節の6方向の運動に対してインピーダンスパラメータが高感度で安定性が高いことより決定された。この電極位置によりにより肘関節などに故障を起こしやすい代表的な投球動作を判別的中率96.7%の高精度な判別が可能であった。球種判別の判定においても同様か検討を行う。 3.動作判別のためのパラメータ決定と判別分析 これまでの投球動作の判別のためのパラメータ(ボールを加速する際に背屈が最大となる時刻から0.1,0.2,0.3,0.4,0.5 秒後の5つのパラメータZ0、Z∞、Ri、fm、βの変化率)を用いた。これらを用いて同様に判別分析を行い、判別的中率について検討を行う。本研究の投球動作の判別においてもfmが大きく寄与するものと考えられる。判別的中率が低いときには、パラメータの再検討を行うこととなる。 4.電子情報通信学会MEとバイオサイバネティックス研究会などにて研究発表を行い、国際インピーダンス学会などにて発表および論文投稿する。
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Causes of Carryover |
今年度の経費として、有力な大規模国際学会への本研究成果発表の旅費を考えていたが、その学会(World Congress on Medical Physics and Biomedical Engineering)が平成27年6月7日~12日にカナダ・トロントで1週間開催されるため、この参加費および旅費として約45万円を次年度分として繰り越すこととなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度分の直接経費80万円を以下の項目に対して執行する。 1.角度計や加速度計などの生体情報計測のセンサを30万円で購入する。2.調査および研究発表の旅費として20万円を充てる。3.データの整理などに対する人件費・謝金として10万円を充てる。4.論文投稿・校閲に対して20万円を充てる。
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