2014 Fiscal Year Research-status Report
歴史にみる自然資源利用の「身の丈に合った技術と知恵」
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26570015
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
西谷 大 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (50218161)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 身の丈にあった技術 / 自然資源利用 / 里山 / 在来の創造力 / 持続的利用 / 学際的な研究方法 / 景観の歴史的特質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はフィールド調査と文献資料調査によって近世から現代における自然環境・自然資源利用の歴史、それに生業の歴史との関係性を含めて明らかにしつつ、人間側の歴史と生物側の歴史とを統一する方法をあみ出し、農村景観の背後に存在する自然資源利用の歴史的な特質とその変遷を、実証的に明らかにすることである。その上で、地域の人びとが創造してきた自然資源を持続的に利用する「身の丈にあった技術と知恵」の存在と、なぜ現在まで継続・継承されてきたのかを具体的な事例にそって明らかにし、持続的な自然資源利用を考える上で何が必要なのかを提示する。 昨年度は千葉県内の生態的な環境や生業が異なり、自然資源利用の方法が異なる候補地を設定した。候補地として、鴨川周辺と木更津周辺の二地点において、調査を行うことにした。千葉県の木更津から鴨川までの海岸地帯の丘陵には、マタバシイの人工林が広がる。明治の初めから植林がはじまるのだが、その用途と魚業の関係性に調査の重点をおいた。鴨川周辺では、現在もさば節の生産が行われている。このサバをいぶすのにマテバシイが利用される。鴨川の背後の丘陵には、東大演習林が広がる。演習林に残された明治30年以来の木材販売の記録と、聞き取り調査とサバ節の制作工程の実地調査とを組み合わせながら、山と海との生業の関係性を明らかにした。 木更津周辺でも、マテバシイの植林が認められるのだが、その利用実態は調査されてこなかった。現在は行われていないのだが、この地域では昭和30年代まで海苔養殖が盛んに行われており、海苔を乾燥させるための薪としてマテバシイが利用されていた。聞き取り調査と実地調査を組み合わせることで、海苔養殖における山と海の関係性を具体的に明らかにした。このように昨年度は、海での生業と山利用との関係性を明らかにすることで、自然利用資源が多様に利用されてきた実態を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「里山」が注目されているが、里山は歴史的な要因や人間側の働きかけによって、その姿をたびたび変えてきた。村落周辺の景観は固定的だったのではなく、その姿は歴史とともに常に変化してきたと捉える必要がある。今回の研究は、選定したフィールドの景観のもつ歴史的特質を知ることが目的の1つなのだが地域の景観すなわち自然資源利用の変化と生態的な環境変遷という生物側の歴史は、それこそ地域よって地域の数だけ多様である。 昨年度は、海と山の利用が、密接な関係性を持つ事例を、サバ節と海苔養殖という二つの生業から明らかにすることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
在来技術は、大規模技術や電気・機械を必要としない。自分達の人力と共同体で維持管理が可能な、「身の丈にあった技術と知恵」が、自然資源利用の歴史的な変遷のなかで、どのような過程を経てなぜ創出されたのかという事例研究を推進するとともに、いかにして継承されてきたのか、その背景を探り、今後の自然資源利用の持続的利用を考えるためには、なにが必要なのか、モデルケースを構築したいと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度に使用額が生じた理由として、フィールド調査地が、勤務地の近くであり、旅費などの経費を効率的に用いることができたことが大きい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度に引き続き調査地を中心とした調査を継続する。
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