2015 Fiscal Year Research-status Report
カーとメリトの家具一式に見られる木工技法の網羅的研究
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26580024
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Research Institution | Musashino University |
Principal Investigator |
西本 直子 武蔵野大学, 環境研究所, 客員研究員 (00720898)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 家具 / 古代エジプト / 木工 / 新王国時代 / 構造力学 / 職人 / 道具 / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では古代エジプト第18王朝時代の建築家カーとその妻メリトの家具一式(トリノ・エジプト博物館蔵)を例として、実測図作成作業を重ねて製作過程を明確化し、意匠を成立させた製作者の思考法を実証的に明らかにしようとする。これらは同時代の王族や貴族、職人の家具との比較において王族ではない貴顕の人の、また夫婦として男女の所有する家具の特徴を知る史料である。 分類法はさしあたりA.機能、B.架構形式、C.象徴性の3つの篩を設定する。Aでは1.収納としての箱、2.寝台、3.座家具、4.卓、5.足台、6.壺立て、の6つに分ける。Bでは編み細工を加味した分類を新たに研究中である。Cでは1.動物の体躯をなぞらえた家具、2.建築的意匠を持つ家具、3.幾何学的意匠の家具、の3つに分ける。 平成26年はC-1.で多数例がある獅子脚の家具について世界の博物館に分散する遺物の完形品、及び部材として残されている獅子脚のデータ化を鑑みて共有すべき実測点の提案を行った論文を地中海学研究37に発表した。トリノ・エジプト博物館においては獅子脚と編み細工を持つ家具の実測を行った。 平成27年は、国際エジプト学者会議(フィレンツエ大学)にて建築家カーの折り畳み式キュービット尺の折り畳み機構図を作成公開し、その稀少性について英語で発表した。日本建築学会大会ではこの尺の製作過程について発表した。日本オリエント学会大会では、近年、美術史の見地からの時代判定が話題になった2つの家型の箱について木工の見地から分析した結果を発表した。2つの箱の製作順は判定できなかったが、所有者が異国人であるという背景のもとに、ボローニャの例がエリコなどに見られる独特の構造形式を持ちながらエジプトの意匠に馴染ませた労作である点を指摘した。また箱の鍵の作り直しの痕跡の発見から、箱が生前から副葬を視野に入れて製作されていた可能性を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トリノ・エジプト博物館の改修工事に合わせて実測作業を調整する必要が生じたために、申請時の予定が早まり、カーとメリトの家具一式の実測については平成26年度には編み細工を持つ寝台2例・腰掛5例の実測を終えた。獅子脚で編み細工を持つ家具としては椅子1例を残すのみである。 成果発表は、平成26年に動物の体躯になぞらえた意匠で多数例を残す獅子脚に関する論考が採用され「地中海学研究37」(2014年)に掲載された。平成27年はカーの折り畳み式キュービット尺(2011年実測)について実測結果をもとに復元を試み、考察結果をイタリア・フィレンツエ大学で行われた国際エジプト学者協会主催、第11回国際エジプト学者会議にて英語で発表し、フィレンツエ考古学博物館館長 Dr M.Ch.Guidotti、Dr M. Eaton-Kraussから一定の評価を得ることができた。現在は当会議発表者の中から選抜された内容の書籍化に向けて英文にて論考を執筆中である。日本建築学会大会(講演番号9003)では西本真一との共同発表としてカーの折り畳み式キュービット尺の実測値から読み取れる製作過程について発表を行い大会論文梗概集にて内容を纏めた。日本オリエント学会北海道大会ではペリパウトの2つの家型の箱について木工の見地からの分析結果を発表し、発表者の中から選抜された内容の書籍化に向けて論考を執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年に獅子脚の実測すべき点を纏め、さらに獅子脚と編み細工を持つ家具を中心に実測調査を行った。本年はその中から建築家カーの寝台の意匠の成立過程を知るために、また編み細工の構造上の役目を検証する目的で、当該寝台の実大復元を行い、復元物を使って耐荷重性能や寝心地の検証を行おうとしている。復元用材とカーの寝台枠特有の湾曲材の作り方の選択は重要である。樹種確認のために5月にトリノ博物館にて顕微鏡ズーム付き写真機による寝台の撮影を行う。マイクロ写真を持って森林総合研究所(つくば)にて樹種を判定いただき用材を確定し、実測図をもとに製作する。製作過程を映像記録する。11月までの完成を目指す。 発表については復元過程における考察内容をまとめて日本建築学会大会(福岡大学)にて発表する。復元物により載荷重実験などを行い、結果を本年度内で纏め、英文にて海外の専門雑誌にて発表する。 ツタンカーメンの折り畳み式寝台についての論考を英文にて纏め、海外の専門誌にて発表する。 平成27年に行った発表に関しては、折り畳み式キュービット尺について第11回国際エジプト学者会議にて発表した内容を英文論文に纏めて国際エジプト学者協会に提出し書籍化に向けて最終審査を受ける。ペリパウトの2つの家型の箱について発表した内容を論考として纏めてオリエント編集委員会に提出し、出版に向けて審査を受ける。またカーとメリトの10の家型の箱については検証を加味して図面を整える。
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Causes of Carryover |
海外の専門雑誌に発表するために論文の翻訳とネイティブチェック費用が発生する。寝台の樹種判定で顕微鏡写真を撮影するためにトリノ・エジプト博物館への渡航費と、福岡での日本建築学会発表の交通費が発生する。参考とする専門洋書が必要である。 建築家カーの寝台を実大復元物をもとに、耐荷重性と寝心地を確認するために、復元費用と、耐荷重性と寝心地の検証を行う場所への運送費が発生する。作業工程の記録映像を収録する。木工家・試験、編み細工などの作業協力者に対して材料費実費と交通費が発生する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
英語論文のための翻訳ネイティブチェックに30万円、トリノ・エジプト博物館での調査の渡航費に24万円、学会福岡大会の交通費に7.6万円、書籍代4万円を計上。 カーの寝台復元は用材を日本で調達して編み細工の材料費とも45万円。寝台枠の加工について日本工業大学インテリアデザインラボの木工家の協力を得る。獅子脚の製作は3Dデータを作成し、fablaboに協力依頼して西本がCNCルーターで行う予定。3Dデータ作成費用で5万円、fablaboで講習費用1万円。編み細工については信州大学のご協力も得て西本が行う。木枠と編み細工の工房が異なり本体輸送費がかかる。耐荷重試験、寝心地の検証にも輸送が必要で運搬費として2万円×5回=10万円を計上する。編み細工や寝台フットボードの作成について延べ14人程度の学生の協力を得る。作業者含めて交通費が6万円。試験・製作など協力者3名への謝礼の合計が10万円。7万円を予備費とする。
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Research Products
(10 results)