2014 Fiscal Year Research-status Report
日本人英語学習者の文理解における動詞下位範疇化情報の使用:眼球運動計測による検証
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26580106
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中村 智栄 東京大学, 総合文化研究科, 研究員 (30726823)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 第二言語習得 / 文処理 / 英語教育 / 眼球運動計測 / 下位範疇化情報 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本語を母語とする英語学習者を対象とした先行研究から, "When the audience watched the actor rested behind the curtain"のようなearly/late closure ambiguityを含む文を読む際, 日本人英語学習者は動詞が自動詞の場合にも他動詞構造として統語分析を行っており, 動詞直後の名詞句を動詞の直接目的語として解釈していることが示されている(Nakamura, Arai, Harada, 2013). 本研究では, Nakamura et al. (2013)で示された日本人英語学習者に特徴的な動詞情報の使用が, 実験に用いられた文構造特有の結果であるかを検討するため, (1)のようなgap-filler dependencyを伴う文構造を用いた実験を行った. これにより, 動詞直後に動詞の直接目的語となり得る名詞句が存在しない文型において, 1. 動詞の下位範疇化情報を用いた統語処理が行われるか, 2. 動詞の下位範疇化情報に基づいた統語分析に意味的齟齬が生じる場合, 文処理過程にどう影響が見られるかの二点を自己ペース読み実験と眼球運動計測実験により明らかにした.
(1a) That’s the building that the lecturer complained about during the semester. (1b) That’s the building that the lecturer taught about during the semester.
early/late closure ambigutiy構文を用いた実験では, 日本人英語学習者は動詞が自動詞の場合にも他動詞構造理解をしていることが示されている一方, この傾向は構文にgap-filler依存関係が含まれる場合には観測されず, 動詞の直後に目的語となり得る名詞句が存在しない文型では下位範疇化情報に基づいた統語分析が行われていることが示された. これらの結果から, 日本人英語学習者は英語動詞の正しい下位範疇知識を持っている一方でその情報への依存度が低く, 動詞の直後に名詞句が現れた場合には直接目的語分析を適用するという原則を自動詞文にも当てはめていることが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では現在までに自己ペース読み実験による英語母語話者と日本人英語学習者の比較, 眼球運動計測実験による日本人英語学習者の読み実験の実施を行った. これらの実験結果の分析により, 日本人英語学習者が自動詞文において他動詞構造理解を行ってしまうという先行研究の結果から得られる以下の2つの仮説について検証を行った. 1.英語母語話者の子供を対象とした第一言語獲得の研究からは, 動詞の下位範疇化情報の知識は特定の動詞を用いた言語使用の経験を積み重ねることで獲得されることが示されており, それゆえ対象言語のインプットが限られた学習者にとっては, 語彙レベルでの学習が必要な自動詞知識の完全な習得が困難であることが予想され, これにより日本人英語学習者は自動詞の下位範疇化情報が獲得できていない. 2.日本人英語学習者は自動詞知識を獲得しているが, その知識をオンラインプロセスで用いることができない. つまり, 特定の動詞に対して正しい自動詞知識を持っているにも関わらず, 動詞の後に名詞句が現れるとその名詞句を動詞の直接目的語として分析し, 他動詞の構造分析を行ってしまう. 実験結果から, 動詞の直後に直接目的語が存在しないfiller-gap依存関係を含む文理解では自動詞情報に基づいた統語分析が行われていることが示しされ, これにより仮説2 が指示された. 本研究のこれまでの結果から, 日本人英語学習者の文理解における自動詞知識の使用方略が明らかとなり, この成果について国際会議で口頭発表を行っていることから, 研究の達成度としておおむね順調に進展していると判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題実施最終年度である平成27年度は, 眼球運動計測実験で得られた日本人英語学習者の比較群として英語母語話者のデータ収集を行う. 日本人英語学習者によるfiller-gap依存関係を含む文構造の処理プロセスを英語学習者のデータと比較し, その結果を国際会議で発表すると共に成果を論文にまとめ, 国際ジャーナルへに投稿する. 本研究の計画時点においては海外でのデータ収集のため持ち運び可能な眼球運動計測装置を用いることを想定していたが, 海外共同研究者の協力にから解像度がより優れた実験室固定型の装置を使えることになっため, 固定型眼球運動計測装置を用いて実験を行う. 同時に, ポータブル型眼球運動計測装置(Pupil Pro)上で実験室固定型装置を用いたパラダイムを実験可能にするための設定を行う.
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Remarks |
The 14th Annual Conference of the Japan Second Language Associationでの口頭発表について, 2014年J-SLA優秀口頭発表賞受賞.
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