2014 Fiscal Year Research-status Report
援助大競争時代における途上国の選択:南南協力はODA後の国際協力枠組になりうるか
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26590022
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
小林 誉明 横浜国立大学, 国際社会科学研究院, 准教授 (00384165)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
近藤 久洋 横浜国立大学, 都市イノベーション研究院, 准教授 (20385959)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ODA / 南南協力 / 難民支援 / 援助競争 / 援助協調 / 国際開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である2014年度は、まず新興ドナーおよび南南協力について出版されている各種文献の収集および読み込みから開始した。特に調査対象国たる援助受入国が援助を必要とする経緯や国内事情、資源賦存、政治経済状況等につき特段の把握を行うよう注力をして分類を行った。国内でのリソースパーソン等へのインタビューを経て、以下のとおり三種類の分析対象を特定した。(1)内戦や軍事政権等の事情でODAの真空地帯になっていたがその後増大に向かっている国としてルワンダ、(2)新興ドナーとしての二大大国(中国およびインド)に挟まれた特殊ケースとしてのネパール、(3)経済発展の結果としてODA卒業に向かいつつある国としてトルコおよびヨルダン。 これらを共同研究者と分担の上で現地調査を実施した。それぞれの現地調査においては1週間程度の滞在により、ホスト国政府 の援助受入窓口たる外務省、予算当局およびライン省庁等へのインタビューを行った。 調査を通じて、南南協力の当事国とが互いにどのような関係性のなかで援助を活用して繋がっているか、その紐帯の太さの違いが明らかになってきた。特に(1)についてはレシピエント側が新興ドナーを梃子に伝統ドナーをコントロールするという現象が、(2)のケースについてはレシピエントが伝統ドナーを梃子に新興ドナーをコントロールするという現象が確認され、(3)については、自らが途上国でありながら難民支援という形で事実上の南北協力におけるODAと同等の南南支援をやっている事実が明らかとなった。 ここまでの中間成果については、開発政治学者の集まる研究会での報告等を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
事前に計画した研究デザインに則って研究が着実に進捗している。むしろ、事前には想定していなかった新たなカテゴリーを見つけられた点は予定以上の成果である。それに伴い現地調査の具体的な対象国については変更がなされた。ただしこれは必要な変更であったと考える。 調査対象として3つのカテゴリーに分類しての調査を実施したが、どのケースにおいてもこれまでは発見されていなかった新たな現象が確認されたのは大きな成果である。この点は、2年目以降の研究とあわせて総合的に分析し、南南協力の特徴として整理をしたい。 今年度は、一つのカテゴリーにつき複数国への調査を実施したかったが時間的な制約で難しく、この点は反省点である。 以上を総合すると、現在の達成度は「(2)概ね順調に進展している」に該当するものと判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目には、③伝統ドナーによる援助が盛んな途上国を分析対象とする。具体的には、タンザニア、エチオピア、ウガンダとアフリカから三カ国、パキスタン、バングラデシュ、スリランカとアジアから三カ国を選定する。これらの国々は、伝統ドナーによる「援助協調」が進展している国々であり、このようなコンテクストにおける新興ドナーの新規参入は、新たな「援助競争」を巻き起こす意味をもち、既存のODA体制と南南協力との間の規範や制度の相互作用を生み出すものと推測される。異なる原理をもつ援助の仕組みが競合しながら共存することそのものが途上国にもたらすシステミックなインパクトについて分析を行う。 新旧の異なる援助のレジームが対峙する現場となるこうした国々は、援助受入国が求めている価値やニーズがどこにあるのかを見極める上で絶好の調査対象となる。受入国政府へのインタビュー調査によって、援助を受け入れる際の選択の基準や受入決定要因等を明らかにしたい。文脈の異なる援助受入国への全調査を踏まえ、南南協力と呼ばれる支援のあり方のエッセンスを抽出し、「南南協力モデル」というものが援助モデルとして存在するかの検討を行う。更に、欧米ドナーによってなされる「施しとしての援助」との対置として語られることの多いローンを活用して経済インフラを開発し、資源を開拓、市場拡大を図るといった「投資としての援助」という特質をもつ「アジア型援助モデル」と南南協力モデルとの違いはどこにあるのかを検討する。 国内の開発学会での報告で開発業界の専門家の意見を仰いだ上で、英語圏の学術誌への投稿を試みたい。
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Causes of Carryover |
計画段階での見積もりよりも旅費の執行が過少となった。これは、(1)出張予定に組み入れていた国に、たまたま別の予算による出張の機会があり、その機会を用いて調査をすることができたという事情、(2)アフリカへの航空運賃が下がったという事情、(3)各カテゴリーごとに二か国づつ訪問する予定が、日程的な制約によって訪問国数を減らさざるをえなかったという事情による。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、26年度に時間の都合等により訪問できなかった地域への出張を実施する予定である。また、集めた資料をデータベース化するための機材(スキャナ等)の必要性が発生しているため、そういた費用に充てる予定である。
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