2015 Fiscal Year Research-status Report
援助大競争時代における途上国の選択:南南協力はODA後の国際協力枠組になりうるか
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26590022
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
小林 誉明 横浜国立大学, 国際社会科学研究院, 准教授 (00384165)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
近藤 久洋 埼玉大学, 人文社会科学研究科(系), 准教授 (20385959)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 南南協力 / シリア難民 / 難民支援 / 三角協力 / ホストコミニティ支援 / 新興国 |
Outline of Annual Research Achievements |
二年目となる2015年度は、昨年度の机上調査に基づいて行った分類に従った国への現地調査に注力した。対象国の分類は、援助受入国が援助を必要とする経緯や国内事情、資源賦存、政治経済状況といった基準に基づき、以下の通りの3パターンを特定した。 (1)内戦や軍事政権等の事情でODAの真空地帯になっていたが、その後増大に向かっている国としてルワンダ (2)新興ドナーとしての二大大国(中国およびインド)に挟まれた特殊ケースとしてのネパール (3)近隣に紛争地域を抱えた国としてのヨルダンおよびウガンダ 上記の内、(2)のネパールについては2015年4月の大震災によって緊急および復興援助の対象となっており、新たな事象としての調査が必要となった。また、(3)のうちとくにヨルダンについては、シリア内戦の悪化およびイスラム国の台頭によって流出が加速したシリア難民の受入国として、難民受入という新たな支援の形態を展開しており、新たな調査が必要となった。 こうした国々について、共同研究者と分担の上で昨年と同様、現地調査を実施した。それぞれの現地調査においては1週間程度の滞在により、ホスト国政府 の援助受入窓口たる外務省、予算当局およびライン省庁等へのインタビューを行った。調査を通じて、新興国による南南協力の形態は多様化しており、これまでのODAの枠組で測ることのできない規模となっていることが明らかとなった。特に、自らが途上国でありながら難民支援という形でODAと同等かそれ以上の南南支援やっている状況を把握することができた。ここまでの中間成果については、開発政治学者の集まる研究会での報告や国際開発学会で報告された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究そのものは順調に推移しているが、本研究がテーマとしている社会的事象そのものに、この1年の間に大きな動きがあったため、研究計画の修正の必要が生じた。 その内の一つは、2015年4月および5月に発生したネパール大地震である。この地震は、新興国による援助のかっこうのプレゼンテーションの場になったが、新興国による緊急援助のパフォーマンスやビヘイビアを知るための絶好の調査の機会ともなった。そのため、調査の対象に加えるという変更が生じた。 また、2011年から発生しているシリア内戦に伴う中東の危機、特にイスラム国の急速な台頭によって発生したシリア難民は、世界の焦眉の解決すべき課題となっている。ドイツが難民の受入を決めたが、シリア難民を最も大量に受け入れているのは実は近隣の中東の途上国である。難民受入はこれまでいわゆる「対外援助」としては認識されてこなかったが、本研究が扱う南南協力という新しい現象の発露そのものともいえる。当初は、ここまでの規模になるとは想定されていなかったシリアの近隣国途上国によって実施されつつあるホストコミュニティへの受け入れという形での難民受入につき、あらたに研究対象として追加したことによって、1年間の延長を申請したものである。当初の予定からは遅れたことにはなるものの、むしろ意欲的な理由によるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
本年は、昨年度までに実施された現地調査調査で得たデータのクリーニングを行う。その上で、不足している情報については、更に補足調査をすることとする。理論的な先行研究が不足している本分野において、現地調査を踏まえた上で必要となる理論の再度のサーベイを実施する。 これらの準備を踏まえて、難民受入という形態を含めた南南協力実施国のインセンティブの分析を行い、南南協力と呼ばれる支援のあり方のエッセンスを抽出し、「南南協力モデル」というものが援助モテルとして存在するかの検討を行う。 本年度は最終年度である、学会報告に加えて、英語圏の学術誌も含めて複数の専門誌への投稿を行う。
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Causes of Carryover |
ネパール震災およびシリア難民の想定以上の大規模発生という新たな状況を受けて、研究計画の見直しおよび変更を行ったことが最大の理由である。加えて、航空運賃の値下げによっても、想定以上のコストカットが可能となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
シリア難民の受入国である中東地域への再度の調査のための出張を実施する。ただし、安全等の状況を考慮し、ヨルダン、レバノン、トルコのいずれかになるかは流動的である。現地調査を受けての机上調査の必要もあることから、文献を購入する費用にも充てる予定である。
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