2014 Fiscal Year Research-status Report
臨床・教育場面におけるトラブル事例の実践分析~帰属バイアスの相互解消に向けて
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26590122
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
岡本 雅史 立命館大学, 文学部, 准教授 (30424310)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山川 百合子 茨城県立医療大学, 保健医療学部, 准教授 (40381420)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ディスコミュニケーション / 認知語用論 / 地域医療福祉連携 / 当事者研究 / 発達障害 / 高次脳機能障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、(1)統合失調症および高次脳機能障害者への医療・福祉場面、(2)四年生大学内での教育場面、という2つの異なる領域におけるコミュニケーショントラブル事例を並行的に捉え、医療福祉従事者と障害当事者間、および大学教職員と大学生間に生じるディスコミュニケーションへの新しいケア方策を探ることである。 本年度は、まず代表者岡本が中心となって、(a)コミュニケーショントラブルを生じさせる認知的基盤について参与者間の立場性、話題の転換、聞き手行動に焦点を当てた認知語用論研究を実施した。さらに、(b)発達障害の当事者研究を実践する研究者達、及び所属する大学の特別ニーズ学生支援室の専門スタッフと意見交換を行い、コミュニケーションの当事者研究の可能性を検討した。一方、分担者山川は、(c)大人の発達障害の事例検討と、(d)講演による基礎的知識の整理を行った。(c)については、「茨城ケアコンソーシアム」を四回開催し、成人の発達障害の事例検討を行うとともに、実際にアスペルガー症候群の就労支援例を報告し、(d)については元・大学保健管理センターの医師(現 県立精神科病院副院長)を招聘して成人の発達障害の講演会を開催した。さらに連携研究者松嶋は(e)文化人類学的見地から「出会い」に焦点を当て自閉症者の生きるリアリティの解明を図り、研究協力者小谷は(f)高次脳機能障害者が多く入居するケアホームについて、高次脳機能障害者が地域で暮らすために必要なサービスを調査し、介護施設に勤務経験があり、現在ケアホームに勤務する3名に半構造化インタビューを行い、データを質的に分析した。そして研究協力者松岡は、(g)大田区の高次脳機能障害者への地域支援活動を継続し、週2度の認知的支援(PCによる文書作成の指導など)を行うほか、大田区家族会の月例会合および高次脳機能障害支援者ネットワークの運営協力を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の年度計画においては、最初に病院や大学でのトラブル事例データの収集と整理に主に時間を費やす予定であったが、研究進捗過程において、トラブル事例数を無闇に増やすことよりも、関係者へのインタビューや談話分析を元にした少数事例の掘り下げと理論的基盤の構築を優先させることへの方針転換を行った。それを実現するために、代表者岡本は自身の勤務する四年制大学で特別ニーズ学生と称される、発達障害を抱えた大学生への具体的なケア活動について、担当スタッフであるソーシャルワーカーからのヒアリングを元に調査すると共に、実際に発達障害を抱えた当事者である研究者との意見交換に基づいた、発達障害者と定型発達者との連続的な支援策の検討を行い、一定の成果を得た。また、分担者山川は多職種による精神障害の事例検討会である「茨城ケアコンソーシアム」(施設の会)を茨城県立医療大学付属病院デイケアにおいて4回開催することで、精神科医、作業療法士、看護師、言語聴覚士、精神保健福祉士など多職種からなる事例検討を深めた。さらに、医療・福祉現場での実践を研究協力者松岡と小谷が担い、文化人類学的なディスコミュニケーションの理論的基盤構築を連携研究者松嶋が担うことで、分析・実践・理論構築の多面的な研究進捗を達成することができたため、当該評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は前年度で得られた分析フレームに基づいて、具体的なトラブル事例データの収集と分析に取り組む。具体的には、代表者岡本を中心に、茨城県立医療大学で山川・小谷を中心に開催される「茨木ケアコンソーシアム(施設の会)」に おいてなされる医療・福祉従事者同士の情報交換の音声データ収録を行い、同時に発達障害を抱える当事者へのインタビューを断続的に実施し、その書き起こしを研究協力者山口に依頼する。また、分析に関しては、松嶋と岡本が文化人類学と認知語用論の知見を元に、上記で得られた談話データをスキーマ化し、トラブルパターンの抽出と認知・行動両面からのリアリティ分析を行うことで、これまで発達障害に起因すると考えられていた自閉症スペクトラム障害を、発達障害当事者と周囲の定型発達者の間で生じる「ディスコミュニケーションスペクトラム」として包括的に整理する可能性を示す。上記の成果は、共同研究報告として、日本発達障害学会と社会言語科学会、ならびに分野横断型の各種研究会で報告される予定である。また、プロジェクトメンバー同士の意見交換も年2回のプロジェクト会合を茨木と京都で開催することで積極的に実施する。
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Causes of Carryover |
年度末の学会報告にまつわる出張旅費等(学会報告用ポスター作成費を含む)について一部を次年度予算からの支払いと変更したため、上記の使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の金額と次年度助成金を合算して、今年度末の当該学会報告にて支出した出張旅費および物品費等に充当する。さらに、次年度は物品費としては、談話データ収録のための音声録音機器、発達障害や精神障害等に対する知見を深めるための関連書籍、音声記録のための記録媒体等に掛かる費用を計上し、旅費としては年度内2回のプロジェクト会合に掛かる出張旅費(連携研究者および研究協力者分も含む)、資料収集および研究成果報告のための出張旅費等を計上する。また、収録した音声データ(会議データも含む)の書き起こしを研究協力者山口に依頼するための謝金、関連学会の参加費等を含むその他経費も合わせて計上し、本研究課題の円滑な遂行を企図する。
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Research Products
(6 results)