2015 Fiscal Year Research-status Report
臨床・教育場面におけるトラブル事例の実践分析~帰属バイアスの相互解消に向けて
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26590122
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
岡本 雅史 立命館大学, 文学部, 准教授 (30424310)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山川 百合子 茨城県立医療大学, 保健医療学部, 准教授 (40381420)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ディスコミュニケーション / 発達障害 / 認知語用論 / 高次脳機能障害 / 地域精神保健 / リスナーシップ / 自閉症スペクトラム症 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の活動として、代表者岡本は当事者の「語り」を聞く立場としての援助者の「聞き手行動」に焦点を当て〈リスナーシップ〉の認知語用論研究を行った。具体的には、聞き手側の振る舞いが会話の場に対してどのような効果をもたらしているかを知るために、まちづくりワークショップにおけるファシリテーターの聞き手行動、一斉授業における生徒の挙手行動、腹話術師の聞き手演技、といった多様なコミュニケーション場面の事例分析を行い、当事者とのディスコミュニケーション解消へのヒントとなる知見を得た。 一方、分担者山川は、引き続き多職種による精神障害の事例検討会「茨城ケアコンソーシアム」を茨城県立医療大学付属病院デイケアにおいて5月、10月、11月、2月の4回開催し、自閉症スペクトラムやADHDなど大人の発達障害の事例について、家族を含めた今後の支援の方向性について検討した。また、発達障害の支援についての啓蒙活動として、臨床・教育場面で発達障害に関わる相談支援事業所職員、小中学校教員、障害者歯科センター職員などを対象に講演を行い、現場でのトラブル事例を集約した。その結果、医療と就労、医療と教育など連携先との意思疎通不足がトラブルを生じさせていることが推察された。 そして連携研究者松嶋は、イタリアでの地域精神保健サービスの活動および、近年日本でも急速に普及しつつある当事者を中心としたケアについて調査・研究をすすめ、特にコミュニケーションに関わるサポートのあり方の特徴と差異について検討した。 さらに研究協力者松岡は、地域臨床の観点から、自身が代表をつとめる蒲田寺子屋を拠点として高次脳機能障がい者に対するリハビリテーション活動ならびに家族会活動の支援などを行い、それらの臨床的活動および学術的な知見などから得られた考察をシンポジウムや講演にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の年度計画で予定されていたトラブル事例データの収集がまだあまり進んでいないが、前年度の各人の研究成果とプロジェクト会合での討議により、量的なデータ収集よりも質的な理論構築に方針転換を行ったため、上記の評価とした。具体的には、代表者岡本の本年度の認知語用論分析は、いわゆる医療・福祉場面とは異なる、一見すると本研究課題とは関連のない様々な制度的なコミュニケーション場面で実施されているが、その結果得られた〈リスナーシップ〉としての聞き手行動の知見は、自閉症スペクトラム症やADHDなどのコミュニケーション障害を抱える者達とのディスコミュニケーションの基盤を浮き彫りにする可能性を有しており、こうした領域横断型のコミュニケーション研究は申請時からの狙いの一つであった。また、分担者山川と研究協力者松岡が精神科病院やリハビリ施設での事例研究を継続的に進めており、理論と実践の相互往復によるディスコミュニケーション研究は他に類を見ないものであると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる平成28年度は、上述したような理論と実践の相互往復によるディスコミュニケーション研究を総括するために、これまで連携研究者であった松嶋を新たに分担者として加え、医療人類学と認知語用論の観点からのディスコミュニケーション・モデルの再規定を行い、その成果を山川・松岡による医療・福祉場面でのトラブル事例データに援用することで、理論の妥当性検証と個々の文脈に応じた実践的なケア方策の策定を行う。特に、発達障害者と定型発達者とのリアリティの違いを認知面と行動面の両面から探求し、ディスコミュニケーションが認知やさらにそのベースにある知覚や感覚の差異と関わっているという見方をどのように現場のコミュニケーションにフィードバックするかについて、うまくいっている支援とそうではない事例を通して検討していく。そして発達障害当事者を交えたシンポジウムを年度末に開催することで、本研究プロジェクトの最終的な研究成果の発信を企図している。同時に個々の研究報告を、社会言語科学会、日本高次脳機能障害学会、日本精神障害者リハビリテーション学会等で行う予定にしている。
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Causes of Carryover |
代表者岡本は資料整理およびデータ入力として研究支援員を雇用しており、年度末に集中的に作業を遂行する必要が生じたため、余裕を見てその他の予算を執行したが、実際の作業の進捗状況により次年度に実施する作業となったため、次年度使用額が生じた。一方、分担者山川は、大学の所在地の隣接した地域にある施設への出張し、成人の発達障害のトラブル事例についてカンファレンスを行う予定であったが、先方の行事の都合で延期となり、平成28年度にカンファレンスを実施することになったため次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
代表者岡本は上記の理由により、前年度予定していた作業を研究支援員に行ってもらう予定であり、分担者山川は平成28年度に上記の施設に出張しカンファレンスを行う予定である。
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Remarks |
山川百合子講演 ○'15/7/8 茨城県精神障害者支援事業者協会管理職研修会「発達障害の支援 ~医療と就労の連携」○'15/8/17 第2回県南教育事務所指導主事等研修会「子どもの心の病気 ~発達障害(教育と医療の連携)」○'15/10/15 福祉法人明清会ほびき園職員研修会「発達障害の支援~医療と就労の連携」○'16/2/14 障害者歯科センター研修会「発達障害の理解と支援~精神科医にできること」
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Research Products
(12 results)
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[Book] 世界の手触り―フィールド哲学入門(第7章 フィールドワークの終わり、フィールド哲学のはじまり―身体の根源的受動性と変容可能性から)2015
Author(s)
佐藤知久, 比嘉夏子, 梶丸岳 (以上、編著), 菅原和孝, 池澤夏樹, 佐野文哉, 田中雅一, 大村敬一, 風戸真理, 松嶋健, 春日匠, 森下翔, 大澤真幸, 鷲田清一, 中谷和人, 渡辺文, 佃麻美, 三原弟平, 江口重幸, 田村うらら
Total Pages
272 (129-148)
Publisher
ナカニシヤ出版
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