2015 Fiscal Year Research-status Report
「青色効果」の検証:青色環境は認知,心理,行動にどのような影響を与えるのか?
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26590131
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
小島 治幸 金沢大学, 人間科学系, 教授 (40334742)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 社会的認知 / 環境 / 色彩 / 心理 / 行動 / 青 / 青色効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
先行研究(Mehta & Zhu, 2009)や我々が行った先の予備的研究では、記憶への「赤色効果」を得ている。しかしまた、受験生あるいは受験産業の間では「青ペンを使うと記憶力が良くなる」(すなわち青色効果)の言説が広まっているという。このため、2年目にあたる本年度(H27年度)は、心理的指標に関しては、記憶課題に焦点を絞り多様な色彩要因を変化させて記憶課題成績への色彩効果を吟味した。 色彩が記憶成績に与える影響を評価するために、記憶材料としては無意味綴り単語を使用し、15単語を順次PCモニターに呈示してそれらを記銘するように求めた。実験1では白色画面上に黒色文字を呈示する条件と、赤色文字、青色文字によって表示する条件をテストした。実験2では黒色文字単語を白色背景画面に呈示した。そして、赤色背景画面、青色背景画面にそれぞれ呈示する条件も行った。さらに実験3では、単語を白色背景に黒色文字で呈示し、参加者は黒色、赤色、または青色のボールペンでその都度単語を手元の用紙に書き写した。そして、各実験では各条件における全単語の呈示が終了した後に、記銘単語の再生を求めた。その結果、全実験を通して、記憶成績における色彩条件の効果は観察されなかった。 一方、記憶課題や計算課題といった認知課題を実施し、その前後に脈拍数と血圧値を計測したところ、計測値は多くの場合、課題実施前に比べて実施後に低下したが、課題の色彩背景について課題成績および生理指標の計測値を比較したが、それらの間にほとんど有意な違いは一部を除いてほとんど見られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近年,日本各地で青色灯の設置が進み,競技場などでは青色に着色されたトラックの設置など広がっている。これは世間で「青色には自殺や犯罪の抑制効果がある」「青色は集中力を高めたり、パフォーマンスを高める働きがある」という俗説(青色効果と呼ぶ)が広がっているためであると考えられる。しかし、青色環境や青色照明が人間の行動に与える効果を明確に示した報告はない.このため本研究では,青色刺激/青色環境において行動が変化するのか、するならばどのように変化するのか、そしてそれは青色刺激/青色環境が我々の心理的過程にどのような効果を与えるためかを明らかにしたいと考えて本研究を開始した。 この問題に応えるためには、まず、青色といった色彩が行動または心理・認知過程のどのような側面に影響を与えうるのかを明らかにする必要がある。このため、心理行動指標や生理的指標を測定して,「青色効果」の有無を検証することが第一段階の課題である。そして、このような効果が「有る」場合には続いてそのメカニズムを考えることが第二段階となるであろう。この疑問に対してこれまで我々は一連の実験を行ってきたが、これまでに行った認知的機能課題のうち、連想課題といった思考課題において得られたデータを詳細に分析した結果、青色環境では創造性評価の高い反応が得られていたことがわかった。このためそのデータを国際学会において発表した(ECVP, 2015)。しかし、他の認知的課題の結果を総合的に見る限り、その効果の有無を明確に答えるまでに至っていないのが現在までの研究状況である。実験の結果から言えることは、この色彩効果、特に「青色効果」は明確に存在するとは言えない。しかしまた全く否定する結果でもなく、僅かにそのような効果が見られる条件もある。つまり、その存在は極めて特殊な条件、あるいは繊細な状況で現れるのではないかと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、青色照明や青色環境が,わたしたちの心理や行動、あるいは認知機能になんらかの影響を与えるのか調べることが本研究の課題である。青色環境下では認知課題での創造性が向上するとする仮説が提案されていることから、その仮説に基づけば、思考課題などにおいて行動促進効果をもたらすのかを調べることになる。しかしその一方で、青色照明の一般的(世間的)理解としては自殺防止など行動抑制効果が期待されている。これらいわば相反する行動特性を少ない実験的手続きから検証することは容易でない。 また、これまでの計測結果をまとめるとその効果の存在を肯定も否定もすることのできない状況となっている。このため、今後もこれまで行ってきたように、心理的、認知的、行動的なさまざまな側面からそれらに関わる要因を統制しながら実験的に現象の有無を検討し、現象を整理しながら結論を導くしかないと考えられる。そのために、これまで用いてきた種類の課題に加えて、さらに多様な知覚・認知・思考といった心的過程を反映する課題を実施して行動データを得ることが必要であろうと考えている。 したがって、今後の研究の実施においても、異なる色彩環境における知覚課題や認知課題の行動成績を比較検討することによって「青色効果」の有無を吟味する。また行動的計測に加えて、可能な限り運動機能や生理機能の計測を行いたい。そしてそれらの結果を総合的に検討することで「青色効果」の有無について結論を導きたいと考えている。
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Research Products
(2 results)