2014 Fiscal Year Research-status Report
原発事故災害時における医療者の罪悪感の生起メカニズムの解明と避難行動指針の策定
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26590162
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
久田 満 上智大学, 総合人間科学部, 教授 (50211503)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
樋口 匡貴 上智大学, 総合人間科学部, 准教授 (60352093)
中村 菜々子 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 准教授 (80350437)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 大災害 / 原子力発電所事故 / 医療者 / 罪悪感 / トラウマ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の最終的な目的は、東日本大震災の発生に伴う東京電力福島第一原子力発電所の爆発事故によって非難を余儀なくされた被災地の医療職が、自分や自分の家族の安全を優先させて地元を離れるのか、あるいは逆に医療者としての責任を優先して病院に残るかの判断をどのような要因を考慮して下したのかを明らかにし、先行研究で指摘されているような避難したことによって生じる罪悪感の程度とその生起メカニズムについて明らかにすることであった。 初年度に当たる平成26年度は、実際のところ被災地ではどのような状況が展開されたのか、またそのような状況下で医療職はどのような体験をし、何を拠り所として避難するのか地元に残るのかを決定したのか、そしてその自己決定に対して現時点ではどう感じているのかを直接調査することが目的であった。研究者らは精力的に被災地の福島県相馬市に赴き、これまでに看護職(看護師や保健師)12名を対象に面接調査を実施した。面接調査の対象者は現在も看護職として勤務されている方ばかりであり、一度の訪問で大勢の面接を行うことは困難であったが、全ての対象者が震災発生当時の体験を深いレベルまで振り返りながら語って下さり、貴重な情報を収集することができた。 現在、面接にて収集した質的データを分析中であるが、面接からの印象では、先行研究が指摘するように、たとえ一晩だけであっても被災地を離れた看護職は全て、罪悪感を抱いていることが分かった。罪悪感を抱いている対象者の中には、まだ小さな子どもがいた人や職場の上司からの強い指示命令によって避難した人も含まれており、長期に亘ってそのようなネガティヴな感情が残り続けることが示唆された。しかしながら、罪悪感を抱いている看護職も特に大きな問題もなく社会生活を営んでいることも判り、どのような対処法を用いたのかを早急に解明する必要性が浮上した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初かなり困難な課題だと予想された、避難経験がある医療職に対する面接調査が軌道に乗っており、今後さらに面接による質的データの収集が進むことが期待できる。さらに、罪悪感を抱いている対象者に対する心理的ケアも面接中あるいは面接後に、必要に応じて実施することが可能な状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目に当たる本年度は、9月ごろを目処にさらに対象者を大幅に増やして面接を続ける予定である。あの大災害を体験した人々の語りは、極めて重要な「証言」であるとも言えるからである。その後、得られた質的データを詳細に分析することによって、残された課題の一つである罪悪感に対する対処戦略の明らかにする。 それらの結果を踏まえて、平成27年度は予定通り、2,000名を対象とした質問紙調査を実施する。調査対象の内訳は、原発事故を体験した当時福島県内の医療機関に勤務していた医療者1,000名および当時福島県以外の都道府県の医療機関に勤務していた医療者1,000名である。調査内容は、面接調査の結果から得られた罪悪感やそれへの対処法、被災の程度、職務上の責任の重さ、要養育家族の有無、放射線に対するリスク認知の程度、職場が公立か私立か、原子力発電体制に対する賛否、性格特性、精神的健康度などである。 現時点では、Webによる調査も検討中であるが、直接対象者に質問紙を配布して回収する方法とどちらがより負担感が少なく済むのかやどちらがより効率的かなどを十分に考慮する必要があろう。また、本調査の前に、侵襲的な質問項目がないかどうかを確認する予備調査を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
平成26年度は、面接対象者20名を想定していたが、福島県外に避難してしまった医療者にはアクセスできなかった。また、被災地に留まっているか、一旦避難したものの戻ってきた医療者に対する面接調査を依頼しても、当初の予定人数を確保することはかなり困難であった。さらに、事前に面接調査に同意してくれても現職である看護職とはなかなか日時のアポイントメントが取りづらかった。以上のような理由で、現地への出張回数が当初の予定より減ってしまった。 さらに、面接が可能であった看護職は12名のデータは、まだ分析し終わっておらず、テープ起こしに必要な人件費が余ってしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、さらに面接対象者を増やしていく予定であり、それに伴って旅費が増えると予想される。さらに、同時並行的に面接データーの分析を始める予定であり、かなりの人件費が必要とされるであろう。
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Research Products
(5 results)