2015 Fiscal Year Research-status Report
細胞にアクチンは必要かークラミドモナスを用いた検証ー
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26650136
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
箕浦 高子 中央大学, 理工学部, 准教授 (80300721)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アクチン / amiRNA / 細胞分裂 / 鞭毛形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、真核生物の緑藻クラミドモナスにおいて2種類しか存在しないアクチン(CrAとNAP)が、生命活動に必須かどうかを、amiRNAによる発現抑制を用いて検証する。研究代表者らは以前に、CrA遺伝子の欠損株であるida5を単離しており、通常は発現しないNAPがこの株で高発現し、主なアクチンの機能を代替することを見出している。 昨年度作成したNAP遺伝子発現抑制amiRNA発現ベクターを用い、3とおりの発現抑制を行った。1つ目は、恒常発現性のami RNA発現ベクターにNAP抑制配列を挿入し、これをida5に導入した。得られた株のほとんどでNAPの発現抑制は認められなかったが、NAPの発現が親株の13%までに抑制された株が1株得られた。しかしこの株の表現型は親株と変わらなかった。したがって、CrAを欠損した状態でも10%程度のNAPが存在すればクラミドモナスは生存可能であることがわかった。次に、この発現ベクターの野生株への導入株とida5との二重変異株を取得し、表現型を調べた。1株において、検出限度以下にまでNAPの発現抑制が認めらた。この株の生育は極めて遅く、多くの細胞で細胞分裂や鞭毛形成の進行が阻害された。このことから、CrAを欠損した状態でさらにNAPをほぼ完全に欠失するとクラミドモナスの生育に重大な支障が生じることがわかった。 さらに、nit1プロモーターをもち、培地中の窒素源(NH4+/NO3-)によって発現のスイッチングが可能なamiRNA発現ベクターを用いた発現抑制も行った。ida5への導入株のうち1株において、窒素源をNO3-に置換しNAP発現抑制を開始したところ、著しい増殖阻害と細胞分裂や鞭毛形成の進行阻害が観察された。このことからもCrAとNAPの少なくともどちらかのアクチンがクラミドモナスの生存に必須であることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画通り、昨年度作成した2種類のNAP発現抑制amiRNAコンストラクトを用い、CrA欠損株(ida5)への導入に成功した。これらの導入株でのNAP発現抑制の程度と表現型について比較観察することができた。その結果、CrA欠損下(ida5)では一定量のNAPが発現するが、その際10%程度にまでNAPの発現量が抑制されてもクラミドモナスの生存に支障がないことが判明した。一方で、NAPの発現量がNAP抗体によるウエスタンブロットの検出限度以下にまで抑制された場合には、鞭毛形成や細胞質分裂に支障をきたし、細胞の生育が著しく阻害されることが判明した。したがって、クラミドモナスにとって2種類のアクチンの少なくとも1つは生育に必須であるが、その量は通常の10%程度で構わないことが判明した。 本研究の実施期間中に、スタンフォード大学のグループによりNAPの欠損株が単離され、ida5との二重変異株の致死性が示された。このことからもクラミドモナスの生存においてどちらかのアクチンが必須であることが明確に示された。本研究とも矛盾のない結果である。二重変異株では両アクチンが枯渇する第2分裂以降細胞が増殖しないため、NAPの減少に伴い細胞にどのような異常が出現するかを見極めるのは困難である。したがって本研究で取得した抑制程度の異なるNAP抑制株は、未知のNAPの機能を推定するうえで有効であろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、NAP独自の機能に焦点を当てる必要がある。通常NAPは全く発現しておらず、CrAの欠損株(ida5)においてのみ高発現する。よってこれまでは、NAP が、CrAが欠損した際の単なるスペアであると考えられてきた。しかし本研究およびスタンフォード大学のグループによるNAP欠損株の解析により、クラミドモナスにとって2種類のアクチンの少なくとも1つは生育に必須であり、両者を失うと致死となることが判明した。また、アクチン脱重合剤ラトランクリン処理により細胞内CrAは著しく減少するが、NAPはその条件で発現が上昇することが示された。したがって、NAPは少なくともラトランクリン応答についてはCrAと異なる特性をもつ。このことは、NAPがCrAのスペアとしてだけでない、独自の機能をもつ可能性を示唆している。実際、研究代表者らの分子系統学的解析により、NAPがボルボックス目緑藻の複数の種において機能的制約を受けて保存されていることもわかっている。そこでまずは、NAP欠損株の解析を行う。とくに、まだ調べられていない運動性、鞭毛形成能、接合管形成能に着目する。前2者については、研究代表者らのこれまでの研究により、両アクチン遺伝子が鞭毛形成時に高発現することがわかっており、鞭毛形成時のNAPの何らかの機能が示唆されるためである。接合管はアクチン重合により伸長する構造であり、この構造にはCrAとNAPが共存することがわかっている。NAP変異株においてラトランクリン感受性の高いCrAしか存在しない場合に、接合管の伸長が影響されるのかどうかを調べる。以上のことにより2つのアクチンの重合性を含む機能の違いを明確にする。
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Causes of Carryover |
物品購入の際に端数が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度物品購入費に加えて使用する。
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