2014 Fiscal Year Research-status Report
心臓内に流入する神経堤細胞の正体の解明~多分化能と可塑性はどこまで保持されるか
Project/Area Number |
26670396
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
栗原 裕基 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20221947)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 循環器 / 分子心臓学 / 発生・分化 / 幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
神経堤細胞を標識するWnt1-Cre;R26Rマウスにおける心臓内の神経堤由来細胞の分布と神経堤のウズラ-ニワトリキメラ移植の結果を比較し、従来心臓神経堤細胞として知られていた後耳胞領域の神経堤に加えて、主に頭部骨格を形成する前耳胞領域の神経堤細胞も心臓内に遊走し、半月弁(大動脈弁及び肺動脈弁)を形成する間葉細胞に異なる分布パターンで寄与すること、心基部領域へは前耳胞神経堤細胞の寄与が大きく、冠動脈起始部から中隔枝にかけての平滑筋細胞に分化することを明らかにした。さらに、前耳胞神経堤と後耳胞神経堤(心臓神経堤)それぞれの除去実験によって、弁形成や冠動脈形成に異なる異常が生じ、神経堤細胞の起源によって心臓形成に対して異なる役割を果たしていることが示唆された。 また、マウス-ニワトリ胚間の頭部神経堤キメラ移植を行い、ウズラ-ニワトリキメラ移植同様の遊走パターンが得られた。しかし、遊走細胞数が少なく、単一細胞の遺伝子発現解析に供するには宿主由来の細胞数に対する比率が低すぎて効率が悪いと判断されたため、効率改善方法の検討とともに、Wnt1-Cre;R26Rマウス心臓からの神経堤由来細胞の単離と解析を試みることとした。 一方、神経堤細胞の冠動脈平滑筋細胞への分化と冠動脈形成にエンドセリンシグナルが関与していることをマウス及び鳥類胚における阻害実験で明らかにしてきたが、その過程でエンドセリンシグナル阻害がマウスでは鼓膜の消失、ニワトリでは鼓膜の重複が起こすことを見出た。この結果を倉谷滋博士(理研)らとの共同研究によって発展させ、脊椎動物の進化の過程で鼓膜がマウスと鳥類・爬虫類とで独立に獲得されたという進化生物学上の仮説を実験発生学的に実証することが出来、その成果をNature Communications誌に報告した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マウスと鳥類胚を用いた双方向的な実験、即ち神経堤細胞を標識するWnt1-Cre;R26Rマウスにおける心臓内の神経堤由来細胞の分布解析と神経堤のウズラ-ニワトリキメラ移植あるいはニワトリ胚における神経堤除去の実験から、心臓に流入する神経堤細胞の分布とその起源による違い、頭部神経堤細胞の冠動脈平滑筋細胞や半月弁間葉細胞への分化を明らかにした点で、本研究の目標の1つ「頭部神経堤細胞は心臓内に流入した後、どのような細胞に分化するのか?」の解明を一歩進め、さらにマウス-ニワトリ胚間の頭部神経堤キメラ移植実験を確立することができたが、遺伝子発現解析には量的な問題があり、方法論の改良とマウスにおける別種の実験を試みるなど、目標達成にはまだ十分ではない点も残った。一方では、本研究の実験から派生した成果が、心臓発生と起源を共有する頭部発生において、鼓膜の起源に関する進化生物学の仮説を実験発生学的に実証する実験に発展させることが出来、予想外の展開を見せた大きな成果となった。これらを総合的に考えると、研究の進展は順調であると考えて良いのではないかと思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
頭部神経堤由来細胞の遺伝子発現プロファイリングとin vitroおよびin vivoでの細胞分化と動態の解析を中心とする。遺伝子発現プロファイリングについては、Wnt1-Cre;R26Rマウスにおける心臓内の神経堤由来細胞の単離とC1(Fluidigm社)による単一細胞解析を中心に行うが、最近連携研究者の和田はC1により単離された細胞のRNA-seq解析を軌道に乗せており、発現遺伝子の網羅的解析により神経堤由来細胞の特徴づけやマーカー遺伝子の探索を推進しようと考えている。細胞分化と動態の解析では、in vitro実験では予定通りフィーダー細胞等を用いた培養系で分化誘導実験を行うが、in vivoに関してはマウス-ニワトリ胚間の頭部神経堤キメラ移植の効率改善とともに、ウズラ-ニワトリキメラ移植を並行して行うことによって、心筋傷害などの病態モデルにおいて、頭部神経堤由来細胞がどのような動態を示し、どのような細胞に分化するかを解析する。以上のように、当初の申請計画の大筋に従いながら、方法論としてより進んだものは積極的に取り入れるとともに、改善を要する点については検討を重ねながら、並行して次善の策となる実験を進め、目標を達成させる。
|
Causes of Carryover |
頭部神経堤由来細胞の遺伝子発現プロファイリングを実施するにあたっては、心臓内の神経堤由来細胞の単離とC1(Fluidigm社)による単一細胞解析を中心に行うが、マウス-ニワトリ胚間の頭部神経堤キメラ移植においては解析に十分な比率の細胞が得られないと判断し、神経堤細胞を標識するWnt1-Cre;R26Rマウスにおける心臓内の神経堤由来細胞の単離を並行して行うこととした。このため、C1(Fluidigm社)による単一細胞解析に用いる費用(1検体につき約20万円)、マウスの維持および細胞単離のための試薬等が必要となり、次年度に繰り越すこととした。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
概算:260万円 分子生物学用試薬(120万円(C1(Fluidigm社)による単一細胞解析費用を含む))、細胞培養試薬・消耗品(20万円)、マウス・床敷等購入(30万円)、マウス飼育委託費(90万円)
|
Research Products
(15 results)
-
[Journal Article] Developmental genetic bases behind the independent origin of the tympanic membrane in mammals and diapsids.2015
Author(s)
Kitazawa T, Takechi M, Hirasawa T, Adachi N, Narboux-Nême N, Kume H, Maeda K, Hirai T, Miyagawa-Tomita S, Kurihara Y, Hitomi J, Levi G, Kuratani S, Kurihara H.
-
Journal Title
Nat. Commun.
Volume: 14
Pages: 18224
Peer Reviewed / Open Access
-
[Journal Article] Lysocin E is a novel antibiotic that targets menaquinone in the bacterial membrane.2015
Author(s)
Hamamoto H, Urai M, Ishii K, Yasukawa J, Paudel A, Murai M, Kaji T, Kuranaga T, Hamase K, Katsu T, Su J, Adachi T, Uchida R, Tomoda H, Yamada M, Souma M, Kurihara H, Inoue M, Sekimizu K.
-
Journal Title
Nat. Chem. Biol.
Volume: 11(2)
Pages: 127-133
DOI
Peer Reviewed
-
[Journal Article] Myocardium-derived angiopoietin-1 is essential for coronary vein formation in the developing heart.2014
Author(s)
Arita Y, Nakaoka Y, Matsunaga T, Kidoya H, Yamamizu K, Arima Y, Kataoka-Hashimoto T, Ikeoka K, Yasui T, Masaki T, Yamamoto K, Higuchi K, Park JS, Shirai M, Nishiyama K, Yamagishi H, Otsu K, Kurihara H, Minami T, Yamauchi-Takihara K, Koh GY, Mochizuki N, Takakura N, Sakata Y, Yamashita JK, Komuro I.
-
Journal Title
Nat. Commun.
Volume: 5
Pages: 4552
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Acknowledgement Compliant
-
[Journal Article] SIRT3 positively regulates the expression of folliculogenesis- and luteinization-related genes and progesterone secretion by manipulating oxidative stress in human luteinized granulosa cells.2014
Author(s)
Fu H, Wada-Hiraike O, Hirano M, Kawamura Y, Sakurabashi A, Shirane A, Morita, Y, Isono W, Oishi H, Koga K, Oda K, Kawana K, Yano T, Kurihara H, Osuga Y, Fujii,T.
-
Journal Title
Endocrinology
Volume: 155
Pages: 3079-3087
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
-
[Presentation] Independent origins of the tympanic membrane and middle ear in different amniote taxa.2015
Author(s)
Taro Kitazawa, Masaki Takechi, Tatsuya Hirasawa, Nicolas Narboux-Neme, Hideaki Kume, Kazuhiro Maeda, Sachiko Miyagawa-Tomita, Yukiko Kurihara, Giovanni Levi, Shigeru Kuratani, Hiroki Kurihara.
Organizer
第47回日本発生生物学会
Place of Presentation
愛知県名古屋市
Year and Date
2015-05-27 – 2015-05-30
-
-
-
-
-
-
-
-
[Presentation] Semaphorin3E, PlexinD1の心臓血管系発生における役割の解明2014
Author(s)
Kazuaki Maruyama , Sachiko Miyagawa-Tomita , Yuichiro Arima , Daiki Seya , Rieko Asai , Akiyoshi Uemura , Yutaka Yoshida , Mann Fanny , Yukiko Kurihara , Hiroki Kurihara.
Organizer
第13回心臓血管発生研究会
Place of Presentation
福島県郡山市
Year and Date
2014-10-17 – 2014-10-18
-
-