2014 Fiscal Year Research-status Report
ヒト多能性幹細胞由来中胚葉細胞の高効率誘導法の確立と分子メカニズムの解析
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26670661
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
池谷 真 京都大学, iPS細胞研究所, 准教授 (20442923)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
戸口田 淳也 京都大学, 再生医科学研究所, 教授 (40273502)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 中胚葉細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度に実施した研究成果については下記の通りである。 1.誘導された中胚葉細胞の単離:誘導された中胚葉の増殖能や分化能などの特性を解析するためには、他の系譜の細胞を排除し、中胚葉細胞のみを単離する技術が必要である。当初の計画では、中胚葉特異的分子マーカーであるBrachyury遺伝子あるいはTbx6遺伝子の遺伝子座にGFP等の蛍光タンパク質をノックインしたiPS細胞の作製、あるいはSmartFlare RNA検出プローブを用いた生細胞の標識と分離を計画していた。しかし、特に前者の遺伝子改変した細胞は、将来的な再生医療に応用が難しく、中胚葉特異的な表面抗原の同定が必須であると考えた。そこで方針を変更し、中胚葉を特異的に分離することが可能な表面抗原の、小規模スクリーニングを行った。その結果、これまでまったく使用されてこなかった中胚葉特異的な表面抗原を得ることができた。 2.多能性幹細胞から誘導された中胚葉細胞の特性評価:上述1の手法を用いて単離した中胚葉細胞から、骨・軟骨・脂肪・筋肉といった中胚葉に由来する細胞への分化能を検討した。まだ予備的な結果ではあるが、単離された中胚葉細胞は、これらの細胞に分化する能力を有していることがわかった。 3.中胚葉誘導過程の解析:上述1の分化誘導過程で、どのような細胞系譜が誘導されているかを、細胞系譜特異的なマーカー遺伝子発現解析により検討したところ、今回の誘導条件は中胚葉細胞の前駆細胞である原始線状の細胞が初期に誘導されていること、さらには、培養を続けた細胞は沿軸中胚葉の遺伝子発現パターンを有していることがわかった。今後は網羅的遺伝子発現解析により、より詳細なパスウェイ解析や変動遺伝子の同定などを平成27年度に実施予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時の計画のうち、中胚葉細胞の単離については方針を変更し、遺伝子操作したiPS細胞の作製ではなく、表面抗原の同定に注力した。その結果、中胚葉細胞を特異的に単離することができる表面抗原を得ることに成功した。この点は将来の再生医療への応用を考えた場合、非常に有用な成果である。また、単離した中胚葉細胞から骨格筋細胞への分化誘導を行い、MYOD陽性の骨格筋前駆細胞を誘導することに成功した。さらには、単離した中胚葉細胞から骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞への分化誘導を行い、今回の方法で得られた中胚葉細胞がこれらの中胚葉を起源とすることが知られている細胞にも分化しうることを示した。さらに中胚葉への分化誘導過程を、特定の細胞系譜で発現するマーカー遺伝子のqPCRにより解析したところ、今回の誘導法は初期に原始線状を、後期に沿軸中胚葉を誘導する方法であることが分かった。当初の計画では平成26年度中に網羅的遺伝子発現解析を実施する予定であったが、表面抗原の同定に予想以上に時間がかかったため実施できず、平成27年度の課題とした。 以上から、本申請研究は当初の予定通り、あるいは方針を変更して進行しており、全体としてはおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、平成26年度に未実施であった誘導過程における網羅的遺伝子解析、さらには当初の予定通り、1. 誘導過程におけるシグナル伝達経路の解析と、2.中胚葉細胞の維持培養条件の検討を行う。 1.中胚葉誘導過程の解析(継続) 平成26年度の残務である誘導過程における網羅的遺伝子解析を行ったのち、パスウェイ解析や本誘導法に特異的に発現する遺伝子を同定する。さらに、それらの関与を、阻害剤やsiRNAなどの手法を用いて明らかにする。また、平成26年度の成果として、本誘導法の長期培養では沿軸中胚葉細胞が有意に誘導されていることが分かった。これまで、沿軸中胚葉を分離する方法は存在したが、沿軸中胚葉への効率的な誘導法は存在しなかったため、この発見は非常に有意義であると考えられる。そこで平成27年度は、多能性幹細胞から中胚葉細胞への誘導過程の解析にとどまらず、中胚葉細胞から沿軸中胚葉が有意に誘導される際のパスウェイ解析や特異的に発現する遺伝子の同定などを行う。 2.中胚葉細胞や体軸中胚葉細胞の維持培養条件の検討 多能性幹細胞から誘導した中胚葉細胞を、細胞の特性を保ったまま維持培養できる培養条件を探索する。発生過程において中胚葉は原始線状あるいは尾芽領域で未分化な細胞として維持されていると考えられている。そこでそのような環境を整えることで、シャーレ上でも中胚葉細胞を維持培養できるという仮説を立て、まずは原始線状と尾芽で強く機能していることが分かっているFGFシグナルあるいはWntシグナルを申請者の開発した培養条件下に付加することにより、維持培養が可能かどうか検討する。
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Causes of Carryover |
当初計画では、平成26年度中に網羅的遺伝子解析を行う予定であったが、遺伝子発現解析は細胞系譜特異的なマーカー遺伝子のqPCRまでにとどまり、RNAseqを行うに至らなかった。そのため、その実験に充当する予定であった資金を翌年に繰り越すこととなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度に未実施であった網羅的遺伝子解析を行う。網羅的遺伝子解析により、中胚葉誘導特異的に活性化しているシグナル分子や遺伝子の同定を行う。資金は、網羅的遺伝子解析のためのRNAseq関連試薬、シグナル分子の阻害剤や亢進剤、あるいは遺伝子ノックダウンのためのsiRNAなどの高額試薬に充当する予定である。
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