2016 Fiscal Year Annual Research Report
膜タンパク質の分子機構解明に資する新規赤外分光計測法の開発
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26708002
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
古谷 祐詞 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 准教授 (80432285)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 赤外分光法 / 生物物理 / 膜タンパク質 / イオンチャネル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、液中での計測に有利な全反射赤外分光計測を駆使し、イオンや基質の結合に伴うタンパク質の構造変化を明らかにすることを目的としている。さらには、急速溶液交換法と組み合わせた計測により、様々なイオンや基質との相互作用やイオンチャネルにおけるゲート開閉、トランスポーターやポンプにおける物質輸送過程での構造変化など、タンパク質の動的な構造変化を明らかにする。具体的には、以下の研究テーマを設定した。1)イオン・基質透過経路でのイオン・基質との相互作用解析(低速溶液交換法)。2)急速溶液交換法によるイオン・基質の結合解離に伴う構造ダイナミクスの解明。 1)に関連して、ほ乳動物由来のカリウムチャネルタンパク質であるTWIK-1について、DMPCに再構成した試料を用いて赤外分光解析を行ってきた。平成28年度は、チャネル活性が保持されているのが確かめられているPOPE/POPG(モル比3:1)の混合脂質系に再構成した試料に対して赤外分光解析を適用した。その結果、基本的には両者の差スペクトルの形状に顕著な差は見られなかったが、Na+イオンに浸した際に生じる不可逆的な構造変化は後者の試料条件では生じなかった。脂質とタンパク質の相互作用の違いにより、イオンチャネルの安定性に違いがあることが分かった。 2)に関連して、TWIK-1のT118I変異体試料を用いて、急速緩衝液交換実験を行った。140 mM NaClから140 mM KClへの交換に伴う赤外スペクトル変化を~40 ms程度の時間分解能で計測を行った。amide I領域にイオン選択フィルター由来と思われるスペクトル変化が観測された。また、メリビオース輸送体MelBについても、バレンシア大学Victor Lorenz-Fonfria博士が来日し、メリビオースとスクロースの急速交換実験について共同研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ATP受容体であるP2Xチャネルの核酸塩基認識機構の共同研究において、CTPやATPの結合解離の全反射赤外分光解析を担当した論文がSci. Rep.に発表された。急速溶液交換法を膜タンパク質へ適用した実験も徐々に軌道に乗ってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、(1)の研究テーマに関連して、ほ乳動物のカリウムイオンチャネルであるTWIK-1について、重水中での全反射赤外分光解析を適用する。主鎖のカルボニル基のC=O伸縮振動が主となるamide IモードはH/D交換の影響を基本的にはほとんど受けないと考えられ、これまで得られてきた赤外差スペクトルがamide Iに由来することを補強する実験結果となる。また、水のO-H変角振動が1640 cm-1程度に現われるがamide Iモードとのカップリングなどの影響を議論することも可能と思われる。 また、(2)の研究テーマに関連して、3回反射型の全反射光学実験系での実験の最適な計測条件の構築を平成28年度から引き続いて行う。4000-1800 cm-1の領域における赤外吸収がほとんどないシリコン製のプリズムを導入して、高波数領域での計測にも取り組む。その他の膜タンパク質として、光駆動ナトリウムイオンポンプとしてはたらくKR2(海洋性細菌Krokinobacter eikastusから見つかった微生物型ロドプシン)のナトリウム結合部位の速度論的解析を試みる。 平成28年度は、顕微赤外分光計測の計測系の構築に必要なピエゾ駆動のZ軸試料台を導入予定であったが、他の研究テーマに重点的に取り組んだため進めることができなかった。平成29年度は、Z軸試料台を導入し表面増強赤外分光計測などの実験条件の検討を行う。 さらに、(1)および(2)の研究テーマでの研究対象となるイオンチャネルタンパク質の活性や構造変化を確認するため、平面脂質膜法によるシングルチャネル電流計測系およびストップトフロー法による時間分解蛍光検出系の構築や評価を行う。
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Causes of Carryover |
時間分解赤外分光計測用のMCT検出器を発注していたが、平成28年度内での納品が難しくなり、平成29年度に繰り越す必要があったことが1つの要因である。また、顕微赤外分光計測で用いるピエゾ駆動のZ軸試料台の組み込みなどの調整に時間が取れないと判断し、購入を見送ったことも要因である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
時間分解赤外分光計測用のMCT検出器、全反射赤外分光計測用のシリコン製ATR結晶、顕微赤外分光計測で用いるピエゾ駆動のZ軸試料台等で使用する計画である。
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Research Products
(9 results)