2014 Fiscal Year Research-status Report
芸道における身体教育の段階性に関する現代的意義-「生成論」の観点から-
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26750254
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Research Institution | Osaka University of Commerce |
Principal Investigator |
迫 俊道 大阪商業大学, 総合経営学部, 准教授 (40423967)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 段階性 / 生成論 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年4月に参与観察の調査を依頼するため、広島県広島市佐伯区五日市町石内で十二神祇神楽を伝承している石内神楽団(臼山八幡神社)を訪問し、本研究の目的、研究の方法、内容について説明を行い、調査協力(練習模様の映像撮影、インタビュー調査)を依頼し了承を得た。平成26年4月から平成27年3月にかけて、石内神楽団の参与観察を実施してきた。また、神楽団の指導者に対するインタビュー調査も実施した。インタビューは神楽の練習場面において収集された映像や、これまでの練習経験からどのような考えを持ち指導を行っているのか、自らが神楽を習ってきた経験から神楽の練習(の段階性)に付随する具体的な事象を明らかにすることを目的とした。指導担当者から、練習に取り組む者の舞の所作や奏楽の技量に応じた指導を行っていること、習熟度に応じて指導を変更するという段階性を示唆する言説が獲得できた。神楽の指導現場に複数の指導者が介入することの弊害を指摘する声もあった。以上の参与観察、インタビュー調査から、指導者と学習者の間で展開される相互作用の具体的な事例を収集することが出来た。 平成26年12月には日本レジャー・レクリエーション学会に参加し、研究報告者と「定着論」と「生成論」の関係性、「フロー理論」について意見交換を行った。平成26年3月には伝統芸能の伝承と人材育成の事例報告のシンポジウム、民俗芸能の伝承に関連した事例の研究報告を含む談話会に参加した。 文献研究については、クラーゲスのリズム論、およびリズム論において中核となる「拍子」と「リズム」の関係性を探究した著書から、「拍子」を生み出す過程を丁寧に記述分析していくことが、身体論研究における「段階性」「生成論」の意義を明らかにしていく、その可能性があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
参与観察では調査対象となる神楽団から早い段階で調査の了承が得られたこともあり、練習模様の映像収集などは順調に実施できている。平成26年度に予定していた神楽団の指導者に対するインタビュー調査も終えている。平成26年度に実施したインタビューを踏まえて、平成27年度もこれまでの研究成果を整理した上でインタビューを行う予定である。文献研究についても、理論的な枠組みの基礎となる「拍子」と「リズム」の関係性を論じた著書の内容も確認できている。研究論文の収集については平成26年度中に行う予定であった研究資料の収集活動の一部を平成27年度(平成27年5月に実施済み)に実施することになったが、本研究と関連性のある研究論文の収集は着実に進んでいる。神楽を習う者に対するインタビュー調査は対象者が次年度以降も神楽に継続的に関わるかどうか未定であったり、神楽の練習時間が十分に確保されていないことが見受けられたこともあり、インタビューの対象者を改め選定する必要性を感じ、平成26年度には実施していない。 また、神楽の指導を実際に行い、指導者としてのフィールドワークの実施の可能性を検討したが、指導者が混在することで学習者が混乱する事態が想定された為、調査対象組織への影響を考えて、限られた場面で指導を行いその限定的な指導場面を記録することにした。 研究報告については以上の調査結果を踏まえ、また研究成果の整理の時間確保ということから報告時期を検討し、平成27年7月の日本地域資源開発経営学会第4回全国大会に学会報告者としてエントリーした。現在、「拍子」と「リズム」に関する理論的な枠組みから、参与観察とインタビュー調査から得られた結果を整理し、研究報告のための準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
身体論研究に関する研究(「生成論」に関わる内容、芸道の相互作用、身体教育の「段階性」)を研究内容とした文献や論文の資料収集を参与観察と並行して行う。平成26年度に実施した参与観察、インタビュー調査とこれまでに収集された身体教育の「段階性」、「生成論」に関する著書、論文等を精査し、平成27年7月12日に日本地域資源開発経営学会第4回全国大会(広島県民文化センターサテライトキャンパスひろしま)において「神楽の継承過程における指導者・学習者の相互作用に関する分析」という演題で研究報告を行う。 石内神楽団に対する参与観察(練習の映像収集、内容の記録)は継続して実施する。学習者へのインタビューについては実施するかどうかを慎重に検討する。また指導者の立場として、神楽の参与観察を行うことも検討したが、これまでに行った参与観察、およびインタビュー調査から、複数の指導者が混在すること、また継続して指導に関与していない者が指導に関わることで生じる問題も明らかとなったために、平成27年度も限定的な場面でのみ指導に関わり、その状況を記録することにする。 平成26年度から平成27年度にかけて蓄積された映像資料を神楽の伝承に関わる者の言動の変化の実態が確認できるように縦断的な分析を実施する。そして、平成26年度と平成27年度にかけて実施した参与観察の映像資料の縦断的分析から析出された内容を確認し、「段階性」の意義を問う設問を吟味し、インタビュー調査を行い、音声資料の整理を行う。文献研究で精査された知見、参与観察およびインタビューの結果から整理された内容、これらを整理し、芸道における身体教育の段階性に関する現代的意義を考察する。
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Causes of Carryover |
「人件費・謝金」の項目の支出額が「0」であったことが要因である。その理由は、インタビュー調査にともない、調査協力者に謝金を支出することを予定していたが、謝金ではなく、商品券(QUOカード)を謝礼としたこと、またインタビュー調査の音声を整理する作業についてはその内容が専門的な用語であったり、前後の文章の文脈から推察しなければならない部分等もあり、この作業を研究代表者が行ったために、「人件費・謝金」の項目の支出額が「0」となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後は、インタービュー調査にともなって生じる音声資料に加えて、参与観察で収集した神楽の練習模様の映像資料の整理、また収集された映像の編集作業も必要になってくる。参与観察を行う調査地において、フィールドノートの作成、映像資料を確認しながらのインタビュー調査も検討しているために、映像資料の編集が可能なスペックを備えたノートパソコンを購入予定である。
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