2014 Fiscal Year Research-status Report
依存に関する責任帰属を評価するための概念的基盤の構築
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26770016
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
佐々木 拓 立命館大学, 文学部, 非常勤講師 (70723386)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 依存症 / 責任帰属条件 / コントロール / 行為者性 / 統制的原理 / 行動制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、近年の脳神経科学に基づいた依存理解に基づいた上で、依存症患者の行為への責任の部分的帰属を論じるための概念枠組を構築するというものである。本年度は「脳神経科学および実験哲学において想定されている依存理解と責任条件の同定」という目標のもと、心理学や脳神経科学では依存症がどのようなものと理解されているかを明らかにすることが目指された。 研究の結果、関連情報の評価にかかわる学習能力、資源を用いた自己制御能力、欲求への抵抗能力、制御に失敗する機会といった要素が責任関連能力とみなされていることがわかった。しかし、同時にこれらの要素を帰属の直接的条件とみなすと、依存症患者の行為者性が説明できないことが判明した。このことは、個々の場面で責任帰属を局所的に可能にする能力が心理学的能力と同一視されえないことを意味する。そこでこの困難を解決するために「統制的原理適用可能性アプローチ」という責任帰属理論を構築し、学会における議論を通じてその批判的検討を行った。 以上の研究成果は以下形で公表された。(1)ワークショップにパネル発表「ロボットにはなぜ責任が帰属できないのか」(日本哲学会第73回大会)、(2)一般発表 'How to evaluate addicts as partially responsible: Free will as a regulative ideal'(第9回応用倫理学国際会議)、(3)一般発表「依存症と自由意志:統制的原理適用可能性アプローチからの検討」(関西倫理学会2014年度大会)、(4)論文「依存行動への責任を限定する:レヴィの自我消耗仮説と規範的統制原理の適用可能性」(『倫理学年報』第64集)、(5)招待講演「依存症:二種類のコントロールと二重の行為者性」(道徳心理学コロキアム第6回ワークショップ)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画時に予定されていた文献調査については、重要文献が期待通り出版され、十分に調査することができた。また、その調査結果によって自らの理論を展開させ、依存症患者への責任帰属を総合的に理解するための理論枠組みを構築することができた。 また、研究成果の公表についても、十分な成果がみられた。とりわけ、第9回応用倫理学国際会議で好評を得られたことはその大きな理由だといえる。このような国際会議で英語を用いて発表できたことは、自身の研究を国際的に公表する土台になった。 加えて、論文「依存行動への責任を限定する:レヴィの自我消耗仮説と規範的統制原理の適用可能性」が『倫理学年報』に掲載されることは、本研究の成果が国内で高い評価を得たことを意味している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、近年の脳神経科学に基づいた依存理解に基づいた上で、依存症患者の行為への責任の部分的帰属を論じるための概念枠組を構築するというものであり、本年度は「脳神経科学および実験哲学において想定されている依存理解と責任条件の同定」という目標が達成された。次年度では、もう一つの目標である「『全般的能力と局所的能力の区分』によるアプローチの妥当性の検証」が目ざれる。 以上の2つの目的については次の4つの下位目標が設定されていた。すなわち、(1) 依存症のもつ脳神経科学的特徴の責任論的意味の同定、(2) 責任の部分的帰属を論じるための新しい分析枠組の提出(3)依存症の特徴と局所的能力の関係の解明(4)依存症を論じるに適当な全般的能力の同定、である。 本年度の研究により、下位目標の(1)及び(3)が達成され、さらに(4)を達成するために必要な責任理論として「統制的原理適用可能性アプローチ」(ARIA) という独自の理論にたどり着くことができた。今後の研究としてはこのARIAというアプローチの含意、そして従来の責任理論との異同を示すことを通じて理論の妥当性を検証する。この新たな課題の遂行は最終的には(4)と(3)の課題にこたえることを可能にし、最終目標である(2)の課題を達成することになる。
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Causes of Carryover |
予定していた日本倫理学会への参加をとりやめたことが主たる理由である。ただし、これによって調査研究が滞ることはなく、当初予定していた成果の公表は十分なされていると考えられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度での具体的な下位研究課題は「依存症の特徴と局所的能力の関係の解明」および「依存症を論じるに適当な全般的能力の同定」である。これらを達成するためには脳神経科学での最新の知見をフォローするとともに、伝統的な哲学的な自由意志概念の再検討が必要となる。 これらの目的を達成するために、脳神経科学および自由意志、責任をテーマとした図書の購入および資料の収集を行う。また、応用哲学会、日本倫理学会、関西倫理学会といった学会において一般発表および論文投稿を予定しているため、助成金をその経費に充てる。また、上記以外の学会・研究会への参加も予定している。
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Research Products
(5 results)