2016 Fiscal Year Research-status Report
菅原為長に関する資料および作品についての基礎的研究
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26770097
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中川 真弓 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (20420416)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 願文 / 石清水八幡宮 / 田中宗清 / 藤原定家 / 古筆切 / 嘉禄元年宗清法印勧進文 / 八幡名物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中世初頭に活躍した菅原為長の事蹟と、彼が成した作品あるいはその断片を整理・考察することで、その著述活動の全体像を把握することを目的としている。 本年度は、前年度に引き続き、石清水八幡宮第34代別当の田中宗清が、権別当の時期に当代の文人・能筆に依頼して作成させた願文類について考察した。それらの願文類は、目的によって二つの群に大別することができる。一つは宗清の所望を祈願したもの、もう一つは長男章清の追善のためのものである。為長の執筆した願文を含む後者の群については前年度に考察を加えており、本年度は前者の願文群に焦点を当てた。 前者の群のうち、天理図書館所蔵の藤原定家筆「石清水八幡宮権別当田中宗清願文案」は、貞応二年(1223)、定家が宗清に依頼されて執筆したものである。また、この「願文案」をもとに書かれたとされているのが、山形県指定有形文化財の古筆切「藤原定家筆願文」である(『山形県の文化財』1990、『山形市の文化財』2002)。ところが、古筆切の内容は「願文案」の本文と全く一致していない。 申請者は、この古筆切が、大正六年(1917)の「赤星家所蔵品入札」に出品された一点であること、さらに出自を遡ると、かつて松花堂昭乗が所持した「八幡名物」のうちの「大願書」であることを確認した。また先行文献では、別ルートで伝来した古筆切「小願書」とともに従来52行にわたっていたものが、後世に分割され、前半35行の大願文、後半17行の小願文となったと解説されている。しかし、実際は「小願書」が先で、「大願書」がそれに連続するのが本来の姿であること、古筆切の本文が、『続群書類従』所収「嘉禄元年宗清法印勧進文」の一部と重なることを指摘した。 以上の調査と考察から、これまで不詳とされてきた「嘉禄元年宗清法印勧進文」の作者が藤原定家であったことを明らかにし、中世文学会秋季大会にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、平成29年1月より、申請者の出産・育児のために中断している。したがって、実質的な研究実施期間は平成28年12月までとなる。 本年度は、菅原為長の願文執筆活動を念頭におきつつ、石清水八幡宮権別当田中宗清を願主とする願文群をめぐって調査・研究をおこなった。「八幡名物」として知られた古筆切を直接見るために山形市内で実地調査をおこない、藤原定の願文以外にもいくつかの収獲が得られた。 その結果、研究計画の通り、平成28年中世文学会秋季大会(於愛媛大学)において口頭発表をおこなうことができた。また、その後の『中世文学』投稿についても採用が許可された。 研究期間は短くなったが、学会発表の計画が予定通りおこなえたため、進捗状況はおおむね順調に進んでいるものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、平成29年度の途中から研究を再開する予定である。再開後は、本年度に中世文学会秋季大会で発表した内容を成稿化し、『中世文学』に投稿したい。 また、李育娟氏との共同研究の過程で予定していた台湾での学会に、研究中断のため参加できなかった。今年度あるいは来年度にむけて、李氏と意見交換をおこなっていく。 本年度の研究の中心となった石清水八幡宮田中宗清願文群からは、さまざまな研究の課題を見出すことができる。ただし、本研究の中心とすべき菅原為長についても、さらに考察することが必要なため、願文群と為長について、両方面から研究をすすめてゆきたい。
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Causes of Carryover |
本年度は、2017年1月から出産・育児のため研究・科研費を中断した。また中断前には、妊娠中のため遠方への調査旅行が制限され、2016年12月の台湾での学会参加も見送った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の途中から研究・科研費を再開する予定にしている。調査旅行については、写真データを残せるように、コンパクトカメラなどの機材を購入予定である。また、台湾での李育娟氏との共同研究のために、台湾で研究会をおこなうことを企画している。
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