2015 Fiscal Year Research-status Report
ヴィクトリア時代後期の英文学における中世主義の研究――ウィリアム・モリスを中心に
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26770100
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
清川 祥恵 神戸大学, その他の研究科, 研究員 (50709871)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | チャールズ・キングズリー / ウィリアム・モリス / 英文学 / 神話学 / デモクラシー / ゴシック芸術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、チャールズ・キングズリーのデモクラシー概念に焦点を当て、おもに講演集・書簡集から分析を進めた。これにより、英国における神話研究の展開をふまえたうえで、北欧神話の受容が異教趣味としてなされたのではなく、アングロ・サクソニズムの形成に大きな役割を果たすものであったことを明らかにした。キングズリーの「デモクラシー」観には、マシュー・アーノルドとも共通した、アメリカ民主主義を単なる衆愚政治とみなす危惧が見られ、19世紀英国における社会思想の一般的な視点を知るうえで重要である。この成果は、2016年3月発行の『神戸大学国際文化学研究科 国際文化学研究推進センター 2015年度研究報告書』において、論文「「人間が人間である権利」としてのデモクラシー:チャールズ・キングズリーの「古代文明」を読む」として報告した。また昨年度におこなった現地調査の成果を、2015年12月に日本英文学会関西支部大会において「ウィリアム・モリスと石の聖書:『人知れぬ教会の物語』の「歴史」概念を手がかりに」として研究発表し、モリスにとってはゴシック聖堂が、歴史書として読み解かれる「記憶」の集成であり、モリスの青年期のフランス旅行では、すでに明白な「中世」のヴィジョンが、これらの聖堂の姿を通して得られていたこと、また同時に、モリスの初期作品には、その理想が具体的に描写されていることを論証した。なお、欧州の情勢に鑑み、予定していた英国西部への渡航調査は見送った。2016年夏期に、アイスランドへの渡航調査と合わせて、あらためて実施する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
欧州情勢の悪化に鑑み、海外への渡航調査を見送ったため、キングズリーの最新の研究概況については未だ文献からの推察にとどまっている。2016年度に振り替えることで対処する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度は、モリスがアイスランド文学から霊感を得て創作した作品を中心に分析する。モリスはアイスランドで触れた古いコミュニティを称賛し、そうした社会形態を理想化したという指摘がしばしばなされている。この興味は、当初は個人的なサガへの関心から発したもので、青年期に発表した作品ではすでにBenjamin Thorpe のNorthern Mythology (1851) から影響を受けたことが宣言されていた。しかし本年度までの研究により、モリスの生涯をつうじて大きな役割をはたした北欧趣味が、たんなる異教趣味として解されるものではないことが明らかになりつつある。そのため、近年より大きな枠組みとして注目をあつめる、ヴィクトリア時代における北欧文化の全般的な影響という視点から、モリスの文学をあらためて分析することをめざす。したがって、夏期にアイスランドへの渡航調査を実施する。この成果については、11月の日本ヴィクトリア朝文化研究学会の大会において報告する予定である。また2015年度より順延するキングズリー関連の調査についても、夏期に英国にて実施予定である。
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Causes of Carryover |
欧州情勢の悪化に鑑み、英国への渡航調査を順延したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度夏期に、アイスランドへの渡航調査とあわせ、あらためて英国でキングズリーに関する調査をおこなう。
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Research Products
(3 results)