2017 Fiscal Year Research-status Report
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26770102
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
関 良子 高知大学, 教育研究部人文社会科学系人文社会科学部門, 准教授 (10570624)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 英米文学 / 文学論 / 詩学 / ヴィクトリアニズム / 懐古主義 / 中世主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、19世紀英詩および詩論に見られる同時代主義(Victorianism)と懐古主義(antiquarianism)の対立を吟味し、[1] 当時の詩人・思想家が共通にもっていた認識の所在、[2] 両立場の対立の根源、[3] この対立・相克によって生まれた効果を解明することにある。 産前産後休業・育児休業での研究中断を挟み二年次目となった本年度は、以下の手順で研究を行なった。まず、当初の計画にあったとおり、ウォルター・ペイターを主な研究対象として研究を行った。ペイターは、有名な『ルネサンス』論や『享楽主義者マリウス』等の印象ゆえか、これまであまり中世主義研究の文脈で論じられてこなかったが、『ルネサンス』論を精査すると、彼が何度も“Renaissance within the limits of the middle age itself”という表現を使っていることが分かる。本研究では、ルネサンスの特徴とみなされる人間精神の解放等が中世の時代に既に始まっていたとペイターが指摘することで、彼が中世擁護の立場を取っていることを証明した。そして、既存の研究では19世紀の中世主義を古典主義の対立概念として捉えられてきたことの弊害として、ペイターの立場の細部が見落とされてきたことを指摘し、懐古主義として捉えなおすことの重要性を指摘した。この研究成果を7月にザルツブルク大学で行われた国際中世主義学会で発表したところ、多くの賛同を得られ、また、海外の研究者らとの交流の中で有益な情報や意見を得ることができた。 年度後半は、歴史研究の分野に中世主義がどのように位置付けられうるかを検証すべく、Hayden WhiteのMetahistory: The Historical Imagination in Nineteenth-Century Europe等の精読に専念した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究成果としては、中世主義学会の国際大会において、本研究の主軸となるウォルター・ペイターについての論考を研究発表できたということがある。国際学会での研究成果の発表は最終年次にと考えていたので、その点では計画以上の進展を得ることができたとも言える。また、本研究に関連する書籍、Wonderlands: The Last Romances of William Morrisの書評を、日本英文学会の全国誌に発表することができたのも大きな研究成果である。一方で、研究計画を立てた当時と生活環境が変わり、育児のために海外調査出張が容易にできなくなったという点で、現地調査に基づく研究に進展が見られなかったところもある。そのような状況であるため、「おおむね順調に進展している」状況にあるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のとおり、本年度は、次年度に予定していた研究成果を、予定よりも早く発表する機会を得たという点で、研究が進展してはいるが、諸事情ゆえに進展できていない部分もあり、また、当初計画していた現地調査が困難であるという点は、次年度も続く状況である。 次年度は、そうした点について研究計画を少し修正し、現地調査に時間と経費を使うよりも、国内でできる調査、研究成果発表を行いたいと考えている。 本年度に研究発表を行ったペイター論については、論文発表がまだできていない状況である。そのため、次年度はこの研究成果の論文執筆に専念したい。また、本研究の研究成果を日本の学会において発表することも重要であると考えるため、日本の学会において発表する機会を見つけたいと考えている。
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Causes of Carryover |
当初、旅費に35万円を計上していたが30万円程度の支出となったことが大きな理由であると考える。差額として生じた46,835円は、次年度の研究関連書籍等の購入費として使用する。
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Research Products
(2 results)