2014 Fiscal Year Research-status Report
新出簡牘資料を用いた戦国秦から統一秦にかけての国制変革に関する研究
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26770240
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
渡邉 英幸 愛知教育大学, 教育学部, 講師 (00615502)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 中国古代史 / 里耶秦簡 / 統一秦 / 始皇帝 / 避諱 / 国制 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の研究成果としては次の諸点が挙げられる。第1に、里耶秦簡J1-8-461簡の「更名扁書」の幾つかの条文の読解である。当該簡の基礎的な検討は申請時すでに行っていたが、採択後、封泥という秦代の同時代文字資料についての検討を進めた結果、従来解釈の定まっていなかった「郡邦尉」という官職名について、それが戦国秦の各郡に分置された「邦尉」(諸県尉を統轄する広域的な上級武官)であるという整合的な理解を獲得することができた。さらに、関連する条文や先秦時代資料の検討を通じ、古代中国で国家を表す一般的名称として有史以来使用されてきた「邦」という概念が、統一秦時代に廃止されていたことを確認し、戦国秦と統一秦との間に、「封建」的統治経路の廃止という国制上の大きな変革が存在したことを指摘した。 第2に「更名扁書」読解の結果を論文にまとめ、公表した点である。これは「里耶秦簡「更名扁書」試釈―統一秦の国制変革と避諱規定」という題で『古代文化』第66巻第4号(2015年3月)に載録された(査読付き)。当該論文では、成果の第1に示した統一秦の官制改革・国制変革の一端に加え、秦の始皇帝時代の避諱規定(尊属者の名前を避ける)の解明を行った。その結果、始皇帝時代には「楚」と「生」二字が、公的文書において徹底して避けられており、これは始皇帝の両親の諱を避けたものであったことを解明した。始皇帝の父親の荘襄王の名前が「子楚」であったことは以前より知られていたが、母親の生前の名前が明らかとなったのは、世界で初めてのことである。 以上の成果は、里耶秦簡が統一秦時代の一級の同時代史料であること、その利用には古文書学的な検討と読解が不可缺であること、そして我が国における簡牘研究が世界的にも高い水準にあることを示していると思われる。本科学研究費の支給により、海外調査と資料購入に大きな便宜を受けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画通り、封泥等の史料を用いて官制変革の解明を行い、里耶秦簡「更名扁書」の検討結果を初年度内に公表することができた。この点はきわめて順調に進展した。ただし次の課題である岳麓秦簡所見の「邦亡」事例の検討や、先秦時代の文字資料に見える「邦」概念全体の検討については、なお進展すべき部分が残されている。
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Strategy for Future Research Activity |
岳麓秦簡所見の「降」・「邦亡」・「帰義」などの事例を分析し、戦国時代末期の秦と他国民・異民族との関係を明らかにする。また先秦時代の金文・簡牘資料や、睡虎地秦簡の用例に遡り、「邦」概念の内容と展開を考察する。海外調査としては、初年度に取り上げた里耶秦簡の収蔵・発掘地を訪問し、可能であれば実物史料を実見したいと考えている。
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Research Products
(1 results)