2015 Fiscal Year Research-status Report
中央アジア出土史料による古代チベット帝国の文書行政システムの研究
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26770244
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
岩尾 一史 神戸市外国語大学, 外国学研究所, 客員研究員 (90566655)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 吐蕃 / 古代チベット史 / 文書行政 / 古チベット語 / 敦煌文書 / 中央アジア出土文書 / 東部ユーラシア |
Outline of Annual Research Achievements |
・本年度は合計3回の実物文書調査を行うことができた:2015年9月にロシア・サンクトペテルブルグの東方写本研究所にて敦煌・カラホト出土古チベット語・漢語文書の現物調査を行った。また2016年2月にフランス・パリのフランス国立図書館にて敦煌出土古チベット語・漢語文書の現物調査を行った。また2016年3月に再びロシア・サンクトペテルブルグの東方写本研究所にて敦煌・カラホト出土古チベット語・漢語文書の現物調査を行った。また関連する調査としては,2015年8月に東京・東洋文庫にて東方写本研究所所蔵敦煌文書のマイクロフィルム調査を行った。 ・関連する研究発表については合計5回行うことができた。そのうち特に2015年7月に行った講演「古代チベット帝国の行政体制と公文書」(ユーラシア文化研究センター)では,本研究によって得られた知見を元に古代チベット帝国の文書行政システムの概観をまとめることができた。 ・また合計4編の成果を出版することができた。そのうち特に「9世紀の歸義軍政權と伊州:Pelliot tibetain 1109 を中心に」(『敦煌写本研究年報』)は,本研究で得られた古チベット語の上行文書の書式についての知見を元にして立論した論文であり,本論文にて主に扱った敦煌チベット語文書Pelliot tibetain 1109はポスト・チベット帝国時代に作成された公文書だが,その書式は帝国期のそれを踏襲していることを述べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・当初の計画通り2016年2月にフランスにて文書調査をすることができたことに加え,さらに民間助成金との組み合わせによりロシアでの文書調査を2015年9月と2016年2月の二度実現することができた。これにより当初の予定より研究を順調に進展できることになった。 ・得られたデータを元にして研究発表についても合計5回行うことができた。これにより,自らの研究成果をまとめるだけでなく国内外の研究者と意見交換をする機会を豊富に持つことができた。特に,吐魯番での国際学会「絲綢之路出土民族契約研究国際学術論壇」では,中国の研究者と多くの意見交換を行い,最近勢いを増している中国のチベット研究の最新動向を知り得た。この情報は来年度以降の研究活動にて活用する予定である。 ・出版できた研究成果は合計4編である。これは調査や研究発表の数と比べるとやや少ない。しかし調査結果や研究発表を元にした論文を現在執筆中であり,来年度以降に出版する準備はすでにできている。 ・「今後の研究の推進方策」にても述べるように,本年度の研究の進展によって,今後の研究課題を明確にすることができた。 以上の研究状況から,本年度の研究進捗状況が,おおむね順調に進展している,と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
・最終年度にあたり,今までの研究を一旦まとめることに注力し,成果の一部を論文の形で発表することを目指す。また成果の一部を発表するため,研究発表も行う。今の所予定しているのは,(1)6月に国際チベット学会(ベルゲン)にてパネルを主催しそこで研究発表を行う,(2)9月にサンクトペテルブルグにて国際敦煌学会があるので,そこで関連する研究発表を行う予定でいる,の2件であるが,機会があれば国内外を問わず研究発表を行い,フィードバックを受けた上で研究の深化を目指す。 ・これまで文書行政の研究を行ってきてさらなる課題も見えてきた。それは行政機構の序列である。古代チベット帝国の行政機構についてはある程度の研究蓄積があるが,その全体像はいまだ明確になったとは言い難い。特にコータン,南詔など帝国の周辺地域の支配の実態と,そこで使われたはずの行政文書の統合的研究はいまだ存在しない。そこで本年度はその点にも留意し,今後はその研究にシフトしていきたい。 ・もう一つの課題は,チベット国内の文書行政と対になるはずの外交文書である。管見の限り,出土文書の範疇において古代チベット帝国の外交文書は発見されておらず,そもそもチベットが何語を使って外交を行っていたのかさえわかっていない。しかし,チベット語碑文史料や漢語伝世史料の中にはチベットの外交に関する記述が見え,そこからチベット帝国の外交理念を一定程度知ることは可能であると考える。今年度はこれまで行ってきた行政文書だけでなく,外交に関しても注意を払い今後の研究につなげていきたい。
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Causes of Carryover |
本年度は本課題研究と一部目的が共通する課題にて,民間財団の助成金を獲得することができたため,研究を遂行するための資金が当初の予定よりも大きくなった.そのため,余裕ができた資金をそのまま次年度に回した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に回した分の資金は国際学会への参加とヨーロッパにおける文書調査にかかる費用に充当する予定である。
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Research Products
(9 results)