2015 Fiscal Year Research-status Report
信頼保護原則による立法者の憲法的統制理論の構築――財産権の現存保障の観点から
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26780012
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
平良 小百合 山口大学, 経済学部, 講師 (00631508)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 信頼保護 / 財産権 / 現存保障 / 憲法 / ドイツ / 公法学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「信頼保護原則」の憲法上の原則としての位置づけを確立し、同原則による立法者の統制理論を構築することを目的とするものである。 本テーマの研究を開始して二年目となる本年度には、ドイツ連邦憲法裁判所の判例及び学説を素材として、具体的な違憲審査の場面における信頼保護原則のはたらきについての分析、検討を開始した。特に、租税法関連の事案を素材として取り上げた。 第一に、租税法に関する規定への、憲法上の財産権保障の適用のあり方について学説及び判例を整理した。憲法上の財産権が租税立法者に対して、どのような理論構成で、どの程度の拘束を及ぼしうるのか、について、――例えば、五公五民原則(Halbteilungsgrundsatz)をめぐって――興味深い議論の展開が見られた。これまでわが国においても、ドイツの租税立法の違憲審査についての研究は存在していたが、本研究は、憲法上の財産権保障のあり方についての総合的な考察の中に新たに位置づけ、財産権保障論の見直しの一助とした。 第二に、近年、ドイツ連邦憲法裁判所は、租税法関連の事案において信頼保護原則の観点から、いくつかの違憲判決を出している。それらの判決及びドイツ公法学界における受け止め方を分析した。統制を強める傾向にある連邦憲法裁判所に概ね賛同する見解も見られるものの、厳しい批判も向けられており、注目に値する議論の応酬がなされている。保護を拡大しようとする憲法裁の判断に対して、信頼が保護されるべき場合を寧ろ抑制的にしようとする議論の様子を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、独語文献を素材とした分析、検討を主としている。本年度、目標としていた租税法分野での憲法上の財産権保障の適用のあり方の分析及び、信頼保護原則の適用のあり方の分析のために必要なドイツの文献は、ほぼ蒐集し終えることができ、分析を行うに十分なものが揃ったため、おおむね順調に研究を進めることができた。 本研究の成果は刊行準備中の書籍の一部を成しているものではあるが、その原稿とは別に、本年度中に本研究の成果を公表するには至らなかった。 以上のことから、今年度の目標はおおむね達成したと評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度には、具体的な違憲審査の場面における信頼保護原則のはたらき方の検討として、とりわけ社会保障法関連での、ドイツ連邦憲法裁判所の判例及び学説の議論の分析を進める。社会保障法関連においては、今年度、分析の主な対象とした租税法関連と異なり、連邦憲法裁判所は、信頼保護原則を用いて弱い統制しか行っていない。その背景や理由付けについて分析する。今年度の研究を推進する中で、租税法と社会保障法(特に年金制度)とを対比して分析する視点が生じていることも掴んだため、スムーズに研究を推進していくことができると思われる。 また、次年度が研究最終年度となるため、ドイツの議論からの日本の議論への示唆をまとめることも意識しながら研究を行う。 次年度も、連邦憲法裁判所判例やそれに関連する議論の分析に必要な文献を取り寄せ、読み解く作業を中心として研究を行い、刊行準備中の書籍の原稿を仕上げていくことを第一に進めたい。また、研究会等に参加し、他の研究者との意見交換、情報・資料収集の機会を積極的にもちながら、研究を推進していきたい。
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Causes of Carryover |
今年度の後半に発注を依頼した書籍(洋書)の価格が確定しないまま、学内の発注手続の締切日となった。 当初の予想より安く書籍の価格が最終確定したものの、締切日を超過していたため、昨年度中に追加購入ができず、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究遂行のために参照したかったものの予算残高との関係で発注可かどうか検討していた書籍を、次年度使用額が若干増加した分で購入する。
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