2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26780129
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Research Institution | Onomichi City University |
Principal Investigator |
林 直樹 尾道市立大学, 経済情報学部, 講師 (50713773)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | デフォー / 思想史 / ブリテン史 / 文脈主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究の目的は、ブリテン思想史上きわめて重要な画期と目されながら、これまで必ずしも十分にその全体像が提示されてはこなかった1710年代の社会思想の展開を、できるだけ多面的に明らかにすることである。 思想分析は利害分析と異なって定量化にそぐわないため、しばしば恣意的になりやすい。しかしながら、利害と思想ないし理念の相互影響関係のもとに歴史を考察する重要性は広く認識されてきていると言える。この研究では、ダニエル・デフォーによる著作を同時代の他の論客による諸著作とともに分析対象とし、言説史上における利害と理念の交錯を同時代史的に活写する。デフォーによる思索の軌跡を、とりわけ1710年代とその前後の時期に焦点を合わせて描き出す作業を通じて、初期近代ブリテン思想史上きわめて多様な理念が発露したこの画期の諸相を複眼的に明らかにしていくことが課題である。 具体的な方法としては、収集した一次史料の論理解析はもちろん、それらの史料が同時代の思想空間に占めた位置、言説史的文脈内で有した意義を明らかにするため、政治史・経済史あるいは社会史の知見を二次文献によって適宜補いつつ、各文献の相互連関のあり様を共時性に留意して考証する。この方法は思想史家ポーコックの『マキァヴェリアン・モーメント』に範をとるものであるが、同時代的知見を広く渉猟するに当たっては、例えばポーター『近代社会の創成』といった文化史領域に属する大著を利用する必要も生じる。 以上の目的・課題と方法にもとづき、平成26年度においては、まず、1710年代におけるデフォーの言説のいわば端緒をなすと最重要著作と言える『大ブリテン合邦史』(1709年)の詳細な検討作業を進め、次に、方法論の深化を企図して、ポーコック、ポーター、ロバートスン、そしてアーミティッジらの啓蒙研究を比較検討する作業を試みた。それぞれ論文による成果の公表を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度においては、史料・文献の収集に努めるとともに、それらを積極的に活用した研究を推進することができた。 この研究におけるキー・パースンであるところのダニエル・デフォーは「英語圏最大の多作家」との評があるほどの膨大な著述を遺した。これらは校訂版『デフォー著作集』としてピッカリング社から再刊されており、本年度はまずこの『著作集』を入手するところから始めた。現代であれば小説や旅行記に分類される著作も、同時代においては政治論や経済論と緊密に結びついているため、まずは網羅的な文献収集を行うことが欠かせないからである。 こうした研究基盤の整備により、上記「研究実績の概要」でも触れたところの、デフォー『大ブリテン合邦史』の綿密な検討が可能となった。1710年代の前半において先駆的な自由貿易論を展開したデフォーがその商業論ないし経済論を深化させたのは、イングランド=スコットランド合邦(1707年)に際して合邦推進派の論客として市場統合の互恵性を説いた経験によるところが大きいと考えられる。それゆえに、この『大ブリテン合邦史』に現れている言説の精細な解析を進めることは、本研究にとって不可欠である。また近年、スコットランド独立運動がさらなる高まりをみせ、本国やヨーロッパのみならず日本においても少なからぬ関心を集めている(独立の是非を問う住民投票が日本でも大きく報道されたことは記憶に新しい)ことからも、合邦の歴史の再検討をめぐる意義は単なる歴史研究の範疇に収まらないであろう。今年度における以上の検討の成果はすでに論文化し、投稿済みである。また、同じく「研究実績の概要」で触れた方法論の深化を目途とした研究についても、学会報告を行うことで一定の成果をすでに公表した。 以上のことから、平成26年度における研究の達成度はおおむね良好であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度以降も、引き続き史料・文献の収集とそれらの検討を行う。 上記「研究実績の概要」および「現在までの達成度」で言及した『大ブリテン合邦史』の検討についてはいまだ不十分であることから、研究を継続する。また、1710年代の共時的言説空間ないし思想空間における最大の問題の一つは「公信用」(パブリック・クレジット)をめぐるものだったと考えられるため(ホースフィールドの古典的研究はもちろん、近著にもウェナリンド『信用災害』など参照すべきものがある)、フランスにおけるミシシッピ・バブルに連動して生じた1720年の南海泡沫事件を終点として見据えつつ、デフォーの言説を軸とした当該時期の信用論の展開を追跡していく。この点について、研究代表者はミシシッピ会社の設立者ジョン・ローの構築したシステムが破綻した直後の1721年時点におけるデフォーのロー批判を取り上げた論文(林直樹「ミシシッピ・バブル後のブリテン―ジョン・ロー来訪をめぐる信用論争」坂本達哉・長尾伸一編『徳・商業・文明社会』)を公表済みだが、そこにおける知見をさらに深めながら研究を進展させたい。なお、これと関連づけて考察すべき重要な経済問題として、いわゆる「ユトレヒト通商条約論争」が存在する。 この研究においては、経済の動きをめぐる言説をもって政治的なそれを根拠づけするというスタンスは採用しない。「研究業績の概要」にも記した通り、この研究は利害分析と同程度に思想・理念分析を重んじ、両者の相互影響関係を検討する。経済と政治の関係も、これと同様の交錯をはらむものと見なすことができる。政治的文脈を通して経済的文脈を意味づけすると同時に、翻って経済的文脈を通して政治的文脈に光を当てるという相互作用の認識をふまえることによってはじめて、同時代の言説空間は複合的に捉えられるのではないか。このような問題意識のもと、さらに研究を推進する。
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Causes of Carryover |
購入予定だった書籍の価格が「次年度使用額」(支払請求額-実支出額)に示されている金額を超えたため、購入を次年度以降に遅らせたことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降に書籍購入あるいは旅費のかたちで全額支出する。
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