2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26780129
|
Research Institution | Onomichi City University |
Principal Investigator |
林 直樹 尾道市立大学, 経済情報学部, 講師 (50713773)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | デフォー / 思想史 / ブリテン史 / 文脈主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ブリテン思想史上きわめて重要な画期と目されながら、これまで必ずしも十分にその全体像が提示されてはこなかった1710年代の社会思想の展開を、できるだけ多面的に明らかにすることである。 思想分析は利害分析と異なって定量化にそぐわないため、しばしば恣意的になりやすい。しかしながら、利害と思想・理念の相互影響関係のもとに歴史を考察する重要性は広く認知されてきていると言える。この研究では、ダニエル・デフォーによる著作を同時代の他の論客による諸著作とともに分析対象とし、言説史上における利害と理念の交錯を同時代史的に活写する。デフォーによる思索の軌跡を、とりわけ1710年代とその前後の時期に焦点を合わせて描き出す作業を通じて、初期近代ブリテン思想史上きわめて多様な理念が発露したと言える時期の諸相を複眼的に明らかにしていくことが、課題である。 具体的な方法としては、収集した一次史料の論理解析はもちろん、それらの史料が同時代の思想空間に占めた位置、言説史的コンテクスト内で有した意義を明らかにするため、政治史・経済史あるいは社会史の知見を二次文献によって適宜補いつつ、各テクストの相互連関のあり様を共時性に留意して考証する。この方法は思想史家ポーコックの『マキァヴェリアン・モーメント』に範をとるものであるが、同時代的知見を広く渉猟するに当たっては、例えばポーター『近代社会の創生』といった文化史領域に属する近年の大著を利用する必要も生じるだろう。 平成27年度においては、前年度に引き続きデフォー『大ブリテン合邦史』の検討を行うとともに、前年度中の成果公表を見送った啓蒙研究の比較検討作業を引き継いでさらに充実させ、論文化した(近く公刊)。また、デフォーのテクストに反映したロー・システムの問題点を検証する作業(2015年3月に端緒となる論文を公刊済み)を継続した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度においては、主として前年度に収集した史料ないし文献を利用し、前年度の成果をふまえて研究推進を図ることができた。 デフォー『大ブリテン史』の検討は、1707年のイングランド=スコットランド合邦に直接関連した同時代の政治的、経済的あるいは社会的文脈を、同君連合として知られる1603年の両国合同より連続する、より大きな文脈の中で捉え返すことが必要不可欠であるとの問題意識のもとに遂行した。これは、前年度において、ジョン・ロックの親友ティレルのイングランド史叙述に現れるスコットランド像と、人文主義者ブキャナンのスコットランド史叙述に現れるイングランド像とを交錯させながら、エドワード一世期における最初期の両国合同の試みについて思想史的に考察を加えた成果をふまえ、前史研究のさらなる進展を期したものである。ジェイムズ六世の思想を体系的に論じた小林麻衣子『近世スコットランドの王権』をはじめ、近年、同君連合期の思想空間に新たな光が当てられつつある。こうした歴史研究の最新の動向を確実に見据えながら、合邦をめぐる諸コンテクストの複合のあり様についての理解をいっそう深化させていく必要があるだろう。 「わずかな学問は人の心を無神論へと傾けるが、学問を深めることで人の心は宗教へと向けられる」とは、同君連合期に活躍したベイコンの言葉である。思想史家ポーコックがイングランド啓蒙を「保守的」と呼ぶとき、そこには、宗教的保守層をはじめとするエスタブリッシュメントが担った改革に対する強意が込められている。しかし同時に、改革のエンジンは非国教徒・自由思想家・共和主義者の(急進的)理念を燃料として取り込まずには推力を得られなかった事実も、彼は否定しない。南海泡沫事件など18世紀初めのブリテン思想空間を彩る出来事の数々は、こうした啓蒙のかたちに照らして再検討する必要があるのではないか。そのように考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度に当たる平成28年度が、本研究計画の最終年度である。したがって、引き続き史料・文献の収集ならびに検討を進めつつ、成果の公表を積極的に行っていきたい。 上記「研究実績の概要」や「現在までの進捗状況」に記した通り、第一に、1710年代のブリテン社会思想の多面的様相を考究するに当たっての前提となる、合邦問題をめぐる歴史叙述の研究をさらに進め、第二に、1720年のロー・システム破綻に連動する南海泡沫事件において顕在化したところの、「信用」の性格をめぐる深刻な見解の対立を歴史内在的かつ文脈主義的な手法を用いて明らかにし、第三に、広義のブリテン啓蒙研究、とりわけイングランド啓蒙研究の一環に本研究を位置づけるための、啓蒙の定義付けと他の(膨大な数に上る)先行啓蒙研究との接続法の模索を、次年度の研究課題とする。成果は逐次論文化して公刊するか、少なくとも国内外の学会研究会報告の場において積極的に公表する予定である。
|
Causes of Carryover |
必ずしも本年度中に購入すべき書籍の点数および総額が大きくなかったため。また、旅費に関しては、所属研究機関支給の研究旅費を優先的に使用したため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に書籍購入あるいは旅費のかたちで全額支出する。
|
Research Products
(5 results)