2015 Fiscal Year Research-status Report
本質主義的信念が集団間葛藤に影響を与えるプロセスの解明
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26780349
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Research Institution | Kyoto Bunkyo University |
Principal Investigator |
浅井 暢子 京都文教大学, 総合社会学部, 講師 (30552492)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 本質主義的信念 / 心理的本質主義 / 集団間葛藤 / 集団認知 / 社会的カテゴリー / 遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、所属集団と他集団の間に遺伝子のような「本質的差異」が存在すると錯覚することが、集団成員の性質の知覚に与える影響を更に実証的に検討した。昨年度の研究では、内外集団を区別する本質が知覚される程度を操作し、その影響力を検証した。しかし、本質的差異の知覚を促した条件では、「本質」の分だけ、内集団成員と自己との類似性及び外集団と自己との差異に関する手がかりが認知的に多くなっていたことが考えられた。そこで、本年度は、内外集団という区分の背景に「本質」を知覚させる条件と「文化」を知覚させる条件を設け、集団内類似性と集団間差異に関する手がかりの量的差異を縮小した上で、本質知覚の効果を検討した。そして、①内外集団の間に本質的差異が知覚させると、自己及び内集団成員と外集団成員の特性次元の類似性知覚が低下すること、②内外集団の背景に文化的差異を知覚した場合や集団成員の持つ政治的意見について推論を求めた場合には、このような効果が生じないことを明らかにした。すなわち、本質主義的信念には、実在しない内外集団間の特性の違いをあたかもあるかのように錯覚させる効果があることが示唆された。 さらに、上記の研究では、昨年度の研究成果と一貫して、人間の「特性」と「意見」では「本質」によって規定される程度に違いがあると人々が捉えていることが示された。そこで、平成27年度末に、人間の種々の性質と「本質」の関連性に関する認知を検証する社会調査を実施した。調査データは、平成28年度に分析を行い、その成果を学会等で報告する予定である。 また、平成27年度は集団間葛藤に関する諸文献を更に渉猟し、これまで得られてきた知見の整理や本研究の仮説の洗練化も行った。その成果の一部は、大渕憲一(編)『紛争・正義・公正の心理学』(北大路書房)において「集団間葛藤の低減」と題した章としてまとめ、社会に広く公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度の研究から得られた知見を精査すると、新たな視点での実験と調査の追加実施が必要と考えられた。そこで、これらを当初計画していた研究の実施前に行うこととしたため、計画全体のスケジュールが予定よりも遅れた。また、平成27年度は身体的な事情で研究を順調に進めることができない期間が生じたことも一因と考えられる。ただし、前年度の成果に基づいて研究を進展させており、成果も積み重ねることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度には、社会調査と実験を行う。平成27年度末に、一度目のインターネットを利用した社会調査を実施しており、その実施手順等を熟知することができた。本年度は、準備期間を短縮することができると考えられる。また、実験の実施にあたっては、愛知学院大学の菅さやか助教や名古屋大学環境学研究科・唐沢穣教授に実験参加者募集などに関して協力を依頼することで実験の円滑な実施を目指す。平成28年度は研究計画の最終年度であるため、研究活動のスケジュール管理をより細かく行い、国際誌掲載を目標とした論文執筆活動や国際学会・国内学会での研究報告など、すでに得られている研究成果の公表にも十分に力が入れられるようにする。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、平成27年度にインターネットを利用した調査を実施する予定であり、予算の多くをその費用として計上していた。しかし、実験研究において得られた成果を精査したところ、当初は計画していなかった予備的調査を先んじて実施する必要性があると判断された。ただし、この追加分の調査費用に関しては、予算に計上していなかったため、予算の配分を見直し、調査費用を本年度予算から捻出するとともに、当初の研究計画にあった社会調査が実施可能な予算を次年度に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、主にインターネットを利用した調査の実施費用として用いる。また、調査と並行して実施予定の実験研究の準備・実施費用(機器購入、実験補助者の人件費)にも充てる。
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