2016 Fiscal Year Research-status Report
本質主義的信念が集団間葛藤に影響を与えるプロセスの解明
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26780349
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Research Institution | Kyoto Bunkyo University |
Principal Investigator |
浅井 暢子 京都文教大学, 総合社会学部, 准教授 (30552492)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 本質主義的信念 / 遺伝 / 集団認知 / ステレオタイプ / 特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までの研究では、所属集団と他集団の間に遺伝子や神経生理学的な違いが存在するとの知覚が、両集団の構成員が異なる特性を持つとの推論を促すことを明らかにしてきた。ただし、こうした現象が生じるのは、内・外集団成員の特性に関する推論に限定されており、本質主義的信念がどのような次元(例. 特性、意見)の集団認知により強い影響を与えるのかの解明が求められた。 そこで本年度は第1の課題として、上記の問題について平成27年度末に実施した「人間の種々の特徴と(生物学的)本質の関連性認知」に関する調査データから検証を行った。その結果、遺伝子といった本質的要因は、価値観や信念といった観念的な性質よりも性格特性を規定する程度が強く、また身体的特徴や能力といった物理的な性質を規定する力はさらに強いと捉えられていることが明らかになった。これらの知見は、直感的に理解しやすいものではあるが、遺伝子などの生物学的要因、すなわち本質が人間の性質に与える影響についての人々の主観的「理解」についてほとんど体系的に検討されてこなかったことに鑑みると、本研究で種々の性質と本質の関連の認知を網羅的に検証されたことの学術的意義は大きいであろう。 さらに本年度は、昨年度に着手した、本質主義的信念と内・外集団成員の性質推論の関連を検証する実験にも引き続き従事し、データの収集をさらに進めることができた。 以上に加えて、平成28年度は北村英哉・内田由紀子(編) 『社会心理学概論』 (ナカニシヤ出版)の第3章「ステレオタイプ」を執筆する機会を得て、これまで行ってきた集団認知、特にステレオタイプや偏見に関わる諸文献の渉猟の成果を一般向けに公表することができた。さらに、執筆過程において、文献の精読、諸理論の整理が進んだことは、本研究の理論的発展にもつながった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度で研究を完了させる予定であったが、研究課題の一部を来年度に持ち越すこととした。これは育児等の理由で研究時間に制約が生じたためであるが、こうした事由に基づき研究期間の延長を申請したところ、これが認められた(詳細な延長理由は申請書にて報告済み)。本年度は、実施してきた実験の追加データの収集、社会調査データの分析、これまでの知見の整理と新たな理論的枠組みの構築を中心的課題に据え、取り組み、大きな成果には至らないまでも、そこに至るために必要な研究成果を積み上げることはできたと考えている。平成29年度には「社会集団に対する本質主義的信念によってより強く規定されている集団認知及び対人認知の次元の検証」を進める予定であるが、上述の本年度の準備を活かし、効率的な実施に努めたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度に実施を予定している実証的研究の準備は、これまでの期間に既に着手しており、この準備を活かして、円滑に研究活動を実施したいと考えている。また、研究の実施にあたっては、他大学の研究者に協力を適宜依頼することで、データ収集の効率化を図る計画である。これについては、複数の研究者に協力の内諾をいただいている。さらに、適宜、研究補助を雇うなどの対応をすることでも研究の推進に努める予定である。 本年度までの間に、研究成果の蓄積がなされてきたため、平成29年度は研究活動と並行して、研究成果の公表活動にも積極的に取り組む予定である。より綿密なスケジュール管理、行政や民間サービスの活用による研究時間の捻出などを行うことで、実証研究の実施と成果公表にかかわる活動の両立を試みたいと考えている。
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Causes of Carryover |
平成28年度には、本質主義的信念と集団認知に関する社会調査を実施することを計画しており、そのための予算を計上していた。しかし、この研究スケジュールを見直し、調査の実施を来年度としたことで、その予算が次年度に繰り越された。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、インターネットを利用した社会調査の実施費用とする。また、調査費用の捻出を優先しても、予算に余裕が生じた場合には、研究補助者の雇用や機器の購入などに充てる計画である。
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