2014 Fiscal Year Research-status Report
原子レベル構造解析に基づいたリチウムイオン電池電極材料の表面・界面理論の構築
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26790053
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
橘田 晃宜 独立行政法人産業技術総合研究所, 電池技術研究部門, 研究員 (90586546)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | リチウムイオン電池 / 電極材料 / 表面・界面 / 走査プローブ顕微鏡 / 透過電子顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度ではリチウムイオン電池電極材料の単結晶もしくは平坦生の高い基板試料の作製を主として研究を展開した。電極材料と電解液の界面で起こりうる現象は未知な部分が多く、これらを走査プローブ顕微鏡ならびに透過電子顕微鏡による実空間・ナノスケール観察によって明らかにすることが重要である。本目的を達成する上で試料作製が重要である。これまでに酸化物単結晶基板とリチウム化合物の蒸気を直接反応させるLi-VIG法を用いて、チタン酸リチウム (LTO)の基盤作製に成功している。本年の実施内容としては、Li-VIG法を応用したコバルト酸リチウム(LCO)の単結晶試料の作製を試みた。結果として、LCO単結晶試料を本手法によって作製する事は困難であることが明らかとなった。これは原料に用いた酸化コバルトCoO結晶とLCOの結晶系が大きく異なるためであると考えられる。一方、CoOからCo3O4への結晶化が容易に起こることを見出し、高品質なCo3O4 結晶試料の作製に成功した。さらに本試料の高分解能 TEM / STEM 観察を実施し、(001) 表面の原子レベル構造を提案するに至った。Co3O4はリチウムイオン電池の負極材料や触媒として有望であるが、高品質な結晶が市販されておらず、これまでに表面・界面の微細観察が困難であったので、本研究の成果は、電池材料だけにとどまらず今後の多様な酸化物表面・界面の研究において重要であると考えている。その他の成果として、電極材料の表面観察を水中や電解液中などの種々の環境下で観察し、液中における表面構造の安定性や電解液界面で起こりうる自発的な物質移動に関して明らかにした。液中観察では神戸大学の大西研究室との共同研究により水溶液中におけるLTO (111)表面の周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)観察を実施し、原子レベル表面構造の解明に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電極材料の基板作製に関しては、酸化コバルト(Ⅱ,Ⅲ) Co3O4基板の作製が可能となり、TEM / STEM による表面・界面の高分解能観察を実現することが出来た。Co3O4はリチウムイオン電池のコンバージョン型負極材料として知られており、電解液との界面で起こりうる結晶構造の変化や有機電解質の酸化還元分解・および変質層の生成反応に興味がもたれている材料であるので、本材料のモデル試料の作製が可能になった事は、今後の電極-電解液界面の研究の展開を考えた上で重要であると考えられる。したがって本年度の成果としては十分なものであると考えている。その他の成果として、チタン酸リチウム(LTO) 表面の液中観察を実施し、水溶液中における原子レベル表面構造の可視化に成功し、超高真空条件下と同様の構造が水溶液条件下でも維持されていることを明らかにした。本成果は金属酸化物-水溶液界面の微細構造を解明した稀な例であり、リチウム電池材料の表面が水溶液中でもある程度安定に存在しうることを明らかにした点で意義深いと考えている。電極表面と液体分子がどのように相互作用しうるのかを考える上で、液中での原子分解能観察を達成する事、およびその構造安定性を議論する事は重要であり、本成果に基づいて、今後の計算科学的手法を駆使した電極材料-溶液界面の物理化学が発展していくことが期待できる。以上の成果より本年度実施した研究はおおむね順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度およびH28年度にかけて、電極材料の液中環境下における表面構造の解明に努める。チタン酸リチウム(LTO)基板の電解液中における安定性を液中AFMによって明らかにする。 液中で解明したLTO表面の原子レベル構造を基に液体分子とLTO表面原子との相互作用を計算科学シミュレーションによって明らかにする。液体分子の溶媒和構造や液中におけるLTO表面の安定構造を求めることで、電極/電解液界面で起こりうる反応の起源を理解する。具体的には溶媒として水や炭酸エステルなどの有機溶媒、およびリチウムイオン電池の電解液として用いられている塩 (LiPF6) などの分子と表面との相互作用をシミュレーションする。計算科学に関しては研究協力者との連携によって達成する。課題として、溶媒分子のバルクとしての振る舞いを解明する事は現状では困難であるため、第一段階として溶媒1分子と表面の数原子との相互作用を種々の分子配置をモデリングした局所エネルギー計算によって見積もる予定である。 他の系としてマンガン酸リチウム(LMO)表面の電解液中AFM観察を遂行する。課題としては電池動作環境での観察を実現する必要があるが、これに関してはアルゴンを封入したグローブボックス内での観察を検討する。LTOとLMOにおける電解液中での表面挙動の差異を確認し、正極・負極材料での特性の相違を理解する。また、電解液に用いる塩の種類を変えて表面との相互作用がどのように変化するのかを調査する。また、同環境で保存した結晶の表面で起こりうる化学的な変化を透過電子顕微鏡観察によって調査し、構造や元素組成の変化などの情報も踏まえて、電極材料と電解液界面で起こりうる反応を理解する。
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Research Products
(7 results)